第26話

 2ー9 モブとイケメン?


 頬を赤らめるイケメンにわたしもテンションが上がっていた。

 うん。

 イケメンってだけで花があっていいよね!

 でも、手は離して!

 だって、わたしは、モブだもの。

 「いえ、そんな結構なものでは」

 わたしは、イケメンの手から自分の手を引き抜くとヒラヒラとさせた。

 わたしたちのやり取りを横で見ていたギルド長が口を挟んだ。

 「ここで話すのもなんだし、もっと目立たない席にいこうか。もしよければルイーズとクラウスも来てほしいんだが」

 「もちろんです、ギルド長」

 というわけでわたしたちは、工業ギルドの、というか酒場の隅っこの席へと移動した。

 「マテ酒を頼む」

 ギルド長が言うと、店員の女の子が微笑んだ。

 「喜んで!」

 しばらく待っていると店員さんが両手にジョッキを抱えて運んできた。

 ほのかに漂う果物の香り。

 マテ酒とは、どうやらリンゴ酒のようなものらしい。

 ギルド長は、それが全員にいき渡るのを確認してからジョッキを掲げた。

 「まずは、クラウスの復職を祝って!」

 全員がジョッキを一度掲げてからそれに口をつける。

 うん。

 爽やかな甘味のあるフルーティーな味わい。

 わたしは、一口飲んでからジョッキをテーブルに置いた。

 ギルド長は、かなりの酒豪なのか、ごくごくと一気に半分ぐらい飲み干しぷはぁっと息をついた。

 「うんまい!」

 「本当に、ここのマテ酒は、絶品ですね」

 ライナス先生がちびちびと舐めるように飲みながら微笑むのを見てギルド長の表情が曇る。

 「それももう、飲めなくなるんだがな」

 「どうしてですか?」

 問いかけたライナス先生にギルド長は答えた。

 「実は、このマテ酒を仕入れている醸造所が閉鎖されるんだよ」

 「なんで?」

 ルイーズさんが訊ねるとギルド長が口を開いた。

 「うちがマテ酒を仕入れていた醸造所は、隣のオーキッド子爵領にあるフロイス醸造所なんだが、そこの主人であるフロイスが先日魔物に襲われてな。命は助かったものの両腕の肘から先を失ってしまったんだ。これでは、もう、仕事はできん」

 マジですか?

 わたしがちらっとギルド長をうかがうと彼女は、はぁっとため息をついた。

 「この味は、彼にしか出せない。しかし、彼には、跡をつげるような弟子もいなければ、子供もいないしな」

 「それは、残念ですね」

 ライナス先生も頷く。

 

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