1 異世界でも介護始めました
第7話
1ー1 ふさわしくなかったので
ジェイムズさんは、わたしを屋敷の奥にある両開きの扉の前へとつれていった。
扉をノックすると中からくぐもった声がきこえる。
「入れ」
「失礼いたします」
扉を開けるとわたしたちは、中へと入った。
そこは、カーテンの閉めきられた部屋で薄暗い照明器具によって照らされていた。
なんだか悪臭がしていて湿った空気の嫌な感じの部屋だ。
ジェイムズさんは、部屋の中央に据えられている大きな天蓋つきの豪奢な飾り彫りが施されたベッドへと近づいていくとベッドの脇で立ち止まった。
「おはようございます、マクシミリアン様」
カーテンの閉じられたベッドの中の人に向かって恭しくお辞儀をするとジェームズさんは、話しかけた。
「旦那様に紹介したい方をお連れしました」
「ああ?」
ひび割れたかすれた声が怒ったように返事をする。
「こんな遅くれてやってきてなんだ?」
「はい」
ジェイムズさんは、たんたんと話し続ける。
「今日から旦那様のお世話をさせていただくトガー様といわれるお方です。トガー様、こちらは、この屋敷のご主人様であられるマクシミリアン様です」
「あの」
「職務怠慢だな、ジェイムズ。朝の時刻に遅れているではないか!お前は、誰に使えていると思っているんだ?」
「あなた様に、でございます。マクシミリアン様」
ジェイムズさんは、特にへこんだりする様子もなくその不機嫌なやからの相手を続ける。
「あの!」
わたしは、声を張り上げて2人の会話に割り込んだ。
「わたしは、今日からここで働かせていただくことになったトガー アリサと申します。お見知りおきを」
「ふん!」
声の主は、鼻で笑うとわたしを無視してジェイムズさんに話しかけた。
「前の世話係はどうした?」
「あの者は、この屋敷にふさわしくないと思いましたので首にいたしました」
ジェイムズさんの言葉に声の主は、ちっと舌打ちした。
「また逃げられたのか?」
「違います」
ジェイムズさんは、繰り返した。
「ここにふさわしくなかったので首にいたしました」
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