第20話 手紙。

「大丈夫?」


「あ、お義母様、わたくし……」


「ああ、よかった気がついた。魔力が暴走してしまったのかもですね。少し休めば治ると思いますわ」


 そう優しくこちらを覗き込むレティシアに、申し訳ない気持ちでいっぱいになって。


 冷たいタオルを額に当てられていることにも気がついたシルフィーナ。


「はう、ごめんなさいご迷惑おかけして……」


 そうシュンと気持ちが落ちて。


「ううん、謝る必要なんかないわ。それよりも」


 レティシアはシルフィーナの両手をぎゅっと握って。


「本当にありがとう。いいえ、ありがとうなんて言葉じゃ足りないわ。もうこの感謝の気持ちをどう表現していいかわからないくらいよ」


 そう、興奮気味に話す彼女。


「もう、諦めていましたのに。見てください、傷跡があったこともわかわないくらいに回復しましたの。あなたのおかげよ」


 そう、タオルをはだけ、自分の胸をあらわにするレティシア。


 そこには。


 あの、醜く引き攣った傷跡など、最初からなかったかのように。

 若いみずみずしい肌があった。

 胸の形も、まるで若返ったようにハリがあって。


「嬉しいわ。本当にありがとう」


 そう、ぎゅっと握った手に力をこめて。

 レティシアの頬に、涙が一筋流れた。


「わたくし、お義母様のお役に立てたのでしょうか……」


「役に立ったどころの話じゃないわよ。本当に感謝してるわ。ありがとう」


 嬉しかった。

 誰かの役に立てたことが。

 女に魔法なんか必要ないと、そう言われ続けてろくに魔法の知識覚えることも無かったシルフィーナ。

 今でもあくまで自分は妖精ちゃんにお願いしているだけだから、厳密には魔法をつかっているわけではないと思っているけれどそれでも。

 お義母さまの胸の傷跡は痛々しく、どうにかしてあげたい、そんな気持ちだけだったけれど。

 それでも妖精ちゃんがちゃんとお願いを聞いてくれたことが嬉しくて。


(シルフィーナ、好き)

(私たち、頑張った)

(褒めて褒めて)


 そう言いながら自分の周りを飛び交うキュアたちに。


(ありがとう。キュア。お願い聞いてくれて)


 半分、泣きそうになりながらキュアたちにそうお礼を言って。


「よかった。本当によかったです……。お義母さま……」


 そう涙を拭うのだった。




 ♢ ♢ ♢



 それから夏の間中、シルフィーナはずっとレティシアの後をついて回って。

 色々なことを学んだ。


 サイラスの聖都での用事はなかなか終わる気配を見せなかった。

 シルフィーナは、「今日は議会を見学しました」「今日は農地の灌漑について学びました」

「今日は市場を視察しました」「来週末は夏祭りが行われるそうです。今日はそのための準備のお手伝いをしました」と、その日にあったことをこまごまとお手紙に綴った。


 その度にサイラスから、「ああよかったね」「頑張っているね」と、労いの返事が届く。


 それでも。

 聖都の様子も知りたいのに、そういった事はお手紙には書かれていなかった。

 心配しているのに、と、少しうらみがましい気持ちにもなる。


 お手紙が届くだけまし。

 そうも思うけれど、やっぱり少し寂しくて。



「夏祭りはかなり盛大に行われる様子です。旦那さまにも見て頂きたいなぁと、ついつい考えてしまいます」


 と、そんな事を綴った手紙は出すに出せなくて。

 文箱にそっとしまったまま、時間だけが経っていったのだった。

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