第7話 図書館に。
聖都の中央、王宮のすぐ隣にある外苑に、その建物はあった。
紅い煉瓦でできた塔のように背の高いそれ。
周囲を覆う樹々から頭ひとつ抜き出たような、そんな建物。
「ほら、あれがこの国で一番の図書館、王立図書館ですわ」
エヴァンジェリンが指を指し示すそこ。
入り口の大きな門には門番が二人立って警護にあたっている。
「今日は平日ですからね。入り口には職員が待機しているはずですわ」
そう言って先に歩く彼女。
王宮外苑はその中に馬車を乗り付けることはできない。
警護の問題もあるし、外苑の景観を保つ意味もある。
乗って来た馬車を外苑入り口の馬車寄せに止め、御者はそこに残したまま二人で歩いてここまで来た。
門をくぐるとエントランスがあり、そこにはまた魔力的な門、ゲートが設られている。
「登録してある者しか通ることのできない魔力紋ゲートなのです。大事な御本もありますから、それを護るためにこういった魔力的な警護も万全というわけですわ」
そういうと、ゲートの前にある石板に手をかざすエヴァンジェリン。
「わたくしは貴族院で登録を済ませましたの。学生にはここの図書館の資料は必須ですからね。中に職員がいるはずですからすぐ呼んで来ますわね。お義姉様はそこでお待ちくださいな」
そう言ってゲートをくぐり奥に進む彼女。
(ここには目に見えない壁があるのだわ)
そう感じるシルフィーナ。
触ってみると確かにガラスのような質感の壁があることがわかる。
貴族院。
自分が通うことのできなかったそれ。
(そうよね。普通の貴族は皆貴族院に通うのだもの)
そう感慨に耽る。
人には誰しも
心の元、と言ったらいいか。
自身の心の奥底にある、
それが
人の体が生物学的なものだとしたら、この
人は皆、死と共にこの
そうして
そして、
そんな
そんな魔力紋を感知し魔力的なゲートとして使用している魔道具がこれ、魔力紋ゲートと呼ばれるものだった。
ただし。
魔道具の中でも特に、こうした魔力紋ゲートなどは
技術的にもはや失われた過去の理論を使用しているこの魔力紋ゲートは、現在の技術では再現不能な聖なる技術とされていた。
「お待たせしましたわ。うーん、本当は人の管理人がいらっしゃるはずなんですがどうやら今はお留守のようなのです。この子でなんとかなるのかどうなのかわからないのですが……」
帰ってきたエヴァンジェリンが連れて来たのは、ちょうど子供のようなサイズの猫の着ぐるみ? だった。
ひょこひょこと歩いて近づいてくるそれ。
縞々な模様。口の周りと手足は白く、グレイのタキシードを着ているその着ぐるみは、シルフィーナに近づくと、言った。
「こんにちわ。登録の無いお嬢さん。ぼくはフロスティ、よろしくね」
ぬいぐるみとしては大きい、でも、大人の人が入るにはちょっと小さい。
そんな猫の着ぐるみ。
中には子供が入っているのだろうか?
シルフィーナがそんなふうに思ったところでエヴァンジェリンが言った。
「この子はこの図書館の司書のオート・マタというものですわ。自動人形? とでもいえばわかりやすいでしょうか。魔力紋ゲートと同じような
(はう)
思わずそう感嘆の声を上げる。
「わたくしはシルフィーナと言います。よろしくね。あなたが魔力紋の登録をしてくださるの?」
ちょっと屈んでそう声をかけてみる。
くりくりっとしたぬいぐるみの目が、こちらを興味深そうに覗き込むのがわかった。
「ごめんなさい。ぼく登録の権限無い」
「ああでも、お義姉様はスタンフォード侯爵の妻なのですから、なんとかなりませんの?」
「王族登録、上級貴族登録のマスタを検索します」
そう言って少し考えるように首を傾げるフロスティ。
「やっぱり、シルフィーナ、登録ない」
「え? でも……」
「魔力的に繋がりのある場合、自動登録は可能です。でも、シルフィーナ、登録、ない」
(ああ、ああ……)
自分は仮初の契約婚だから。
そう、立ち尽くすシルフィーナ。
「まだ早かったのかしら。ごめんなさいねお義姉様。貴族の結婚は相手の魔力をもその血縁に染めていくのですけど、きっとまだ少し時間がかかるのかもしれませんわ。ちゃんとした人の管理者がいればよかったのですけどしょうがありません。出直しましょ?」
呆然としてしまったシルフィーナを促すように、エヴァンジェリンは彼女を外に連れ出して。
(ああ、これはお兄様を問い詰める必要がありそうですね……)
そう独りごちた。
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