誰得☆ラリクエ! 俺を攻略するんじゃねぇ!? ~麗しの桜坂中学校編~

たね ありけ

プロローグ

001

「やった、これでコンプリート・・・!」



 時刻は深夜2時。

 俺こと、京極 武きょうごく たけしは老舗VRメーカーの傑作『虹色ルシファークエスト』(Rainbow Lucifer Quest、略称RLQ、俗称ラリクエ)の30周目をクリアした。

 30周も、と思うなかれ! キャラゲーにあるまじき節操のない設定で、男女恋愛だけでなくBLや百合までカヴァーしているのだ。

 プレイヤーは主人公を男性3人、女性3人の中から選ぶことができ、なんと他の主人公の恋仲になれる。

 購買層を男女絞らないという点で斬新なんだか馬鹿なんだか。

 開発陣曰く「常識をぶっ壊す」ことで売上もぶっ壊したらしい(売れたんだぜ?)。

 そんな前衛的なところを尊敬して某掲示板でRLQラリクエと呼ばれるようになった。



「あー、達成感ーーー!!」



 で、この誰得なゲーム。1人の主人公につき5通りの攻略があるから合計で30周。

 ネット全盛のソーシャルゲームでの周回もびっくりなボリュームで、相当に時間を費やした俺でさえ30周に1年以上かかった。

 俺の睡眠時間を返せ。四十路で睡眠不足は仕事に響くんだ。



「これ何度やっても飽きない。作り込まれてるよなぁ・・・」



 色物ゲームなのに手抜のない世界観。

 メインパートは学園モノの癖に最後はパーティーを組んで魔王を倒しに行くという設定。

 ファンタジーかと思ったら近未来、半SFもの。片手間の戦闘と思いきや敵の強さはかなりのもので、国民的RPGの○○クエ2で最後の長大洞窟を攻略本無しでクリアするくらいの感覚だったりする。

 例えが古いって? だって俺もう四十路半ばだぜ? FC初期世代だぜ?

 インターネットなんて子供の頃なかったぜ?

 理不尽なゲームなんて子供の頃から浴びるようにやりまくったからな!



「・・・まだ別ルートをやりたいな・・・追加パッチとかねぇのかな」



 ほら、入れ込んだゲームが終わった後の虚脱感ってあるじゃない?

 まだまだ浸っていたいのに、でも最後が見たくて終わらしちゃった時のアレ。

 終わった直後に最終データからリプレイしてみたりとかして余韻に浸ったり。今はそんな気分なんだ。

 でもさすがに30周した後はリプレイもお腹いっぱい感があるからね。

 とにかく今日は疲れた。

 睡眠時間だけじゃなくて家族との時間も削っちまったからな、明日から嫁の雪子にはたっぷりサービスしてやろう!



「よっし、寝ますか!」



 心地よい虚脱感に包まれながらふかふかのベッドに身を投げると、俺はそのまま深い眠りに落ちていった。


























ーー 汝、探究者よ。新しき道を与えん --




























 ちゅんちゅん。おう、朝ちゅん。いい朝だ。さすがに眠いけど・・・。

 うーん肌寒い。あれ、真夏なのにな。エアコンつけっぱなしだったか?

 目を開けると見知らぬ部屋。見知らぬパジャマ。なんか身体も自分のものじゃない感覚。

 ・・・おい、お約束過ぎんだろ!

 ゲームだけじゃなくてラノベも読みますよ、転生モノとか異世界移転モノとか。

 40過ぎても立派なオタク趣味だ! というかオタクの定義って何なんだよ!

 皆、アニメやゲームのひとつやふたつ、嗜んでるだろ!

 俺は日本の文化だと誇ってるんだぞ! 海外から大絶賛されてんだろ!

 ・・・いかん、現実逃避しても始まらない。

 小綺麗な六畳一間の部屋なので洗面所もすぐ。もちろん見るのは鏡。

 若い男がおりました。肌の艶、良いね。



「誰だこいつーー!!!」



 知らねぇ!! 誰だよ俺!!

 おいおいおい、こういう転生モノって直前にやってたゲームのキャラになったりするんじゃねぇの?

 幸いにして男だったけどさ。さすがにTSはカンベン。

 俺が誰だか特定できねぇと何の世界か分かんねぇし対処のしようがないぞ!

 手掛かりを掴むため部屋に戻る。

 ベッドと、壁に大きなモニターがある。

 これ、画面が液晶じゃなくね? 薄すぎる。横にカレンダーが貼ってある。

 日付は・・・西暦2207年 3月!?

 よし落ち着け。寝起きだからって落ち着けマイサン。深呼吸だ。スーハースーハー。

 よく見りゃ壁も壁紙じゃなくて金属なのか樹脂なのかよく分からん艶を出してる。

 未来っぽいんだよなぁ。電灯も無くて、なんか天井自体が光ってるっぽい。

 やっぱり最後にやってたラリクエの世界っぽいな。

 確かゲームの開始は2210年だったからその3年前なのかもしれん。

 他に未来のゲームやらアニメも観たことあるからそれかも知れんが。

 で、俺は一体どこの誰だ? なんか身分証を持ってねぇのか。

 再び家探しすると、机の引き出しにあった。それっぽいカードが。

 凄いんだぜ、ただの四角いカードだったのに俺が持ったら文字が浮かび上がる。

 偽証防止機能付きのIDカードだ。ラリクエにもあったから間違いねぇ。

 で、肝心の名前。京極 武(12)。



「ぎゃああぁぁぁ! 俺じゃねぇか!」



 最近のキャラゲーって主人公の名前を変えてもそれっぽい声色で呼んでくれる機能があんのよ。

 だから俺もそういった機能を活用して女の子ににゃんにゃん呼ばれて楽しんでたけどさ。

 ほら、青春をもう一度ってさ。分かるよな!? ・・・分かるよね?

 でも、ラリクエではやってないよ? 名前変えちゃったら、他の主人公する時に、ねぇ?

 よく考えたら知らねぇこいつって、自分の若い頃の顔だったか?

 髪が長くてよく分からなかったからな。もしかしたら一致するの名前だけでモブキャラなのかも。

 もう一度、鏡を見て確かめてみよう。



「俺だこいつーー!!!」



 ◇



 落ち着け俺。よし、状況を整理しよう。

 恐らくこの世界はラリクエの中。ゲーム本編開始3年前。

 俺は中学生、京極 武。12歳。

 入学前の準備を終えてるらしく、4月から関東州立 桜坂中学の1年生。おおう、道州制!

 さっきの身分証がそうなっていたことで把握。

 そんで何故か、この1Rの部屋にひとり暮らしっぽい。

 親は何処行ったんだ・・・。まさか親まで転移してないよな。 してないよね?

 親の住所発見した。連絡先が中国州広島市。俺は広島に何の縁もねえぞ?

 遠すぎ。だから下宿っぽいのか。ここは寮か? 後で外へ出てみよう。

 ってことは知り合いも居ないのかも。まぁその方が都合が良い。

 うん・・・当面の生活は何とか誤魔化せるかも知れん。


 そもそもこの世界で何をどうするって考えてみよう。

 ラリクエの世界だと仮定して。

 魔王を倒さないと地球が滅亡すんだよね・・・駄目じゃん!

 俺どころか人類皆兄弟死亡!

 ってことはだ。クリアしねぇと駄目、これは必須。

 このまま死にたくない、嫁と子供に会えなくなる。

 そもそも死んでも復活する仕様もなかったしな。セーブできるとは思えねぇから堅実にしないと。

 あれだ、ゲーム難度が高いから主人公じゃないとクリアできねぇだろ。モブなんて能力値低かったし。

 てことは、俺はモブでもねぇから、主人公を魔王にけしかけて倒させにゃいかんと。

 いや待て。もしかしたら勝手に倒してくれるかも・・・?

 いやいやいや、倒してくれなかったらまるっとおじゃん!

 自分の生死を人任せにはできねぇ。

 やはり俺が主人公に接触するしかねぇのか・・・。

 このへんも転生モノのお約束、なのか?


 もうちょっと思い出せ、俺。

 バックストーリーだ。あの無駄に濃い世界観が今は必要だ。

 確か2158年に宇宙から魔王がやってきて、ムー大陸に降り立って。

 それで世界中に魔物が跋扈するようになって、世界人口が十分の一になる。

 人類の中に新人類フューリーって呼ばれる超能力者が出てくるようになって、魔物と戦えるようになる。

 で、残った人類で作った世界政府が北欧、北米、東亜に対魔物の訓練学校を作った。

 東亜の訓練学校「高天原たかまがはら学園」が物語の舞台で、新人類フューリーを鍛える場所。

 最後はこの部隊で遠征してムー大陸に乗り込んで魔王討伐する。

 おおまかにこんな内容だ。

 ということは、主人公に接触するには高天原学園に入学せにゃいかん、と。

 えー・・・高天原学園の入学要件って何だよ・・・。

 3年前だから準備する期間はあるけどさ。

 ネット検索できりゃな・・・そうか! 未来なんだから検索機能くらいあるだろ?



 ◇



 ということで家探しその2。

 情報検索するためのツールを探す。一番可能性が高そうなのがこのモニター。

 電源は・・・見た目は無いね。駆動部なんて壊れる箇所だから当然に無い。

 てことはタッチスクリーン? 触ってみる。 おわっ! ついた!?

 はえーっ、テレビっぽいのが何か写ってるけど、それ以外に幾つかウィンドウが出てる。

 テレビとPCが別駆動するなんて、前近代的なデバイスじゃないわけだ。当たり前か。

 検索マークっぽいのがあるぞ。ここを選んで・・・入力デバイスは?

 タッチキーボードとかも出ねぇぞ? 音声か?



「高天原学園」



 駄目元で口にしてみると画面に文字が出た。おう、すげぇ速度で反応したな。さすが未来。

 検索ボタンをぽちっとな。

 おー、ウィンドウが幾つか開いた。学園の概要、入学される方へ・・・。

 なんか子供たちの入試を思い出すな。この間、息子 剛の大学受験が終わったばっかりだし。

 保護者気分で「入学される方へ」を選ぶ。

 すると画面いっぱいに入学についての要件や受験日が表示された。

 受験日や費用は置いといて。人数や倍率は・・・げ、14.4倍!?

 募集人数360人でこれかよ。

 俺、こんな倍率の受験なんてしたことねぇよ・・・。

 剛が受けた大学が9倍だったから・・・あいつよく受かったな。我が息子ながら。


 「本校は新人類のための教育機関です。このためAR値が既定値(※)以上の方のみ受験することができます」。


 「(※)既定値は30%とされています」



「ぎゃあああああー!!! そうだったああああーーー!!!」



 そうだ、忘れてた!!

 ゲームだと具現化リアライズって能力で魔力から武器とかを生成するんだった。

 もちろんファンタジー的な魔法も具現化で。

 この具現化の基礎能力値がAR値だ。ARって何の略称か忘れたけど。

 つまりだ。

 俺のAR値が既定値以上でないと詰む!!!

 待て待て待て、これって先天的なものか!?

 ゲームでAR値ってステータスの基礎能力欄にしかなかったし、変動しなかったよな?

 先天的だったら詰むぞ・・・

 どうすりゃいい?

 うーん、まずは俺のAR値を測るところからだ。

 既定値以上なら受験するために努力すりゃいい。

 既定値以下なら・・・用務員でも何でも良いから学校に潜り込むしかねぇ!

 まだ時間は少しはあるんだ。今日明日の話じゃない。

 落ち着け落ち着け・・・。

 仮に既定値以上で受験するとなると、受験勉強もしなきゃならん。

 ・・・用務員コースでも教養必要だよな? 結局勉強かよ。

 そもそも俺、この世界の勉強についていけんのか?

 ちょっと教科書っぽいもの見てみよう。



 ◇



 中学生の勉強なんて楽勝だぜ、と思ったけど、色々未来過ぎて怖い。

 タブレットじゃなくて3D投影機能のついた30センチくらいのスティックが教科書だった。ワンダフル!

 もしかしてノートも、と思ったら、やはり電子ペンっぽいものでその投影された空白部に書き込める。

 すごいんだぜ、ホログラムっぽいのに電子ペンを押し付けると手応えあるから普通に書ける。

 やばい、未来テクノロジー楽しい。

 いや待て、今はそうじゃねぇ。教科書の内容だよ。旧人類の俺のアタマでついていけるのか?


 数学・・・うん。知ってる内容。良かった。でもなんか微積分まで入ってるから中学なのに高校の内容ぽい。未来、レベル高ぇな!

 科学・・・ちょ、待て。ニュートン力学なんて何のその。重力磁場の話とか入ってるぞ!? 世界の常識が旧人類な俺にはヤバい。理系で良かったけど、それでも理解追いつけるか・・・?

 歴史・・・うん、リアル世界2030年までは一致する。開発スタッフ様感謝。覚えるのはそれ以降の歴史だな・・・これは上積みでどうにかなりそう。記憶あるのみ。

 世界語・・・これ、あれだ。世界政府が樹立して定義された世界共通人造語だ。問題は文字が読めるかなんだけど・・・うは、わかんね。 英語みたいに耳にもしたことねぇからな・・・。 こ、れ、は・・・ヤバい。高天原って世界中から学生が集ってた気がするから、マスターしねぇと話にならねぇぞ!? 中3で英語ネイティブペラペラレベルを目指すってのと同じ状況だよ!


 ふぅ・・・。

 結論。科学と世界語がヤバい。

 しかも高天原学園に入れる学力まで上げるんだろ・・・はい、勉強漬け確定!!

 命かかってるからなぁ・・・はぁ・・・。

 人生やり直しでハッピー、転移チートで無双って要素ねぇぞ・・・。

 AR値とか、俺の具現化能力もわかんねぇし。

 本当に生き残れんのか・・・俺・・・。

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