第266話 人間の首輪

 俺は目の前の女に戸惑っていた。強制進化の首輪をつけられる前に感じた気持ちがなくなっていた。


 今までならきっと復讐心が溢れ出ていたが何も感じないのだ。


 これがケトの存在が離れていったということなんだろう。


「ふふふ、びっくりして動けないよう……あなたは誰かしら?」


 俺はこの言葉を言われるとは思いもしなかった。


 たしかにケトではないが、見た目は同じのはずだ。


「あの忌々しい子どもはどこに行ったのよおおおお! 私の大事なマーベラスの心を盗んだ泥棒め!」


 どうやら何かあったのだろう。それにしても俺もケトもきっとマーベラスの心はいらないだろう。


「あなたもなによ! 捨てられた私が惨めに見えるっていうのね……」


 女は自身を中心に魔法陣を発動させると、そこから魔物が溢れ出した。


「魔物……お前の仕業だったのか!」


「ははは、そうよ! 私が殺せば殺すだけそいつの魔力があの人の元にいくのよ」


 自身の首に着いているものを俺に見せつけるように顔を上げた。


 首には強制進化の首輪が着いていた。


 きっと彼女も首輪による影響が何かしら出ているのだろう。


 ただわかったのは首輪をつけた者が殺傷行為を行うと、魔力が誰かの元へ吸収されるらしい。


 少しに違うが俺の魔力もその誰かに吸収されているのだろう。


 そんなことを思っていると女は俺の首元を見ていた。


 俺は咄嗟に手で隠したがすでに遅かった。


「お前があの人の心を奪ったんだ!」


 女が魔物に命令すると、魔物達は次々と俺に向かって飛び掛かってきた。


「水治療法!」


 俺は咄嗟にスキルを使った。やはりスキルは発動されなかった。


 俺はその場で切り替えてすぐに走り出した。


「ははは、逃げても無駄よ」


 時折飛んでくる火属性魔法に俺の進路は絶たれていた。


 気づいた時には火と魔物に囲まれていたのだ。


「あなたが消えればマーベラスの心は私のものよ」


「本当に俺が消えてもいいんですか?」


「どういうこと?」


「俺から魔力が吸収できるんですよね?」


「そうよ」


 どうやら俺の魔力は吸収されていることは

確定だ。


 俺はそこで賭けに出ることにした。


「俺がいれば永遠に魔力が吸収できますよ?」


 女は少し考えると話し出した。


「吸収が終わればあなたはいずれ死ぬわ。だから多少早くなっても気にしないわ」


 どうやら俺は魔力を吸収されれば死ぬ運命だった。


 俺がケトの体に入っていなければ今頃……いや、あの時に死んでいたか。


「別に俺を殺す必要性はないですよ。すでに俺は魔力がないですよ」


「どういうことよ」


「俺の体の中には首輪からの魔力しか残っていない。それこそ、俺を今ここで殺したらその人にとっては損害になるはずだ」


「別に私がいたらあなたなんて必要ないわよ」


 それでも俺が必要かどうか悩んでいるのだろう。


 すでに必要なければ魔物が魔法でトドメを指しているはずだ。


 俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。もう人に殺されて死ぬのはうんざりだ。


「消えろ!」


 振り向くと同時に俺は火属性魔法を魔素に変えて逃げ出した。


「追いかけろ!」


 それと同時に魔物達は火の中に飛び込んだ。


「キャン!」


 だが魔物達は何かに当たったのかその場で悶えていた。


 俺は囲まれた火の中を少しずつ動き逃げ場を探していた。


 建物が倒れてなおかつ一本道、そして子どもの俺が通れる場所が……一つだけあったのだ。

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