第177話 食いしん坊 ※一部ガレイン視点
マルヴェイは食べ出したら止まらなかった。
「あー、これうまいな!」
「そんなにパスタ美味しいですか?」
「トマトもうまいが、俺はクリームのほうが好きだな。今度はオイルのやつにしよう」
マルヴェインはパスタが気に入り、三回目のおかわりをしようとしていた。パスタがだんだん飲み物に見える速さで食べるのだ。
「ほんとにマルヴェイン兄さんってよく食べますね」
「ガレインが食べなさすぎなんだよ。なあ?」
「確かにガレインは食が細いですけど、兄さんはそれ以上食べたらオークになりますよ?」
この国では太ることをオークになると例えることが多い。いや、もはやゴリラだからゴリ……ゴリオークか。
「お前!?」
マルヴェインはイラつき立ち上がった。
「おまたせしました。ペペロンチーノです」
しかしマルヴェインの前にニンニクがたっぷり入ったペペロンチーノが出されるとすぐに椅子に座った。
さっきまで機嫌が悪かったのがどこか飛んでいった。しかも数分後には完食していた。
「次は――」
その後もパスタの注文が繰り返され、気付いた時には全六種類のパスタを食べきっていた。
「はぁー、よく食べたな」
「兄さんほんとにオークキングになりたいんですか?」
おっ、ついにオークからオークキングになった。
「いや、ここのご飯がうまいのがダメなん だ。また近いうちに来ようか」
王城のほうが良いものを食べているはずなのに、マルヴェインは異世界食堂のご飯にハマったらしい。
「はあー、ここまできたらもう兄さんは止めれないからごめんね」
「いえいえ、気に入って頂けて良かったです」
「ほら、ケントもこう言ってくれてるんだ」
おい、いくら王族で限度はあるからな。さすがに店にある物を食べ尽くさなければいいが……。
「兄さんはもう少し遠慮しようね」
マルヴェインは少し強引な性格なんだろう。
「そういえば、さっき働いていた子の中で、アスクリス公爵家の令嬢がいないか?」
「アスクリス公爵家の令嬢ですか?」
異世界食堂の中には孤児院の子しかおらず、俺は誰のことを言っているかわからなかった。
隣にいたガレインは俺の脇腹を突き、耳元で話した。
「孤児院のお金を横領している可能性がある貴族です。この前お話した人です」
「あいつらの娘ってことか!」
思い出したくもない名前を聞いてケトの記憶がまた戻ってきた。
「きっと見間違いかもしれないですね。アスクリス公爵家の令嬢はすでに亡くなったと聞いているが、風貌がどうにも公爵家と公爵夫人に似ているからね」
「セヴィオン兄さんはその公爵令嬢にお会いになったことがあるんですか?」
ガレインはセヴィオンに尋ねると頷いていた。
「ガレインはまだ小さかったから覚えてないと思うが、一度五歳の時に披露パーティーがあったはずだ」
スキルを授かる少し前に貴族達は子どもわ紹介するためにパーティーを開く風習があるらしい。
セヴィオンはその時に一度公爵令嬢を見ていた。
「そのあと少ししたら令嬢は亡くなったと報告を受けて、父上と母上は埋葬の儀に参加されたはずですね」
「それならなんとなく覚えてはいますが、一回見ただけでよく令嬢を覚えていますね」
「ああ、俺は記憶力が良いほうだからな」
セヴィオンはスキルの影響もあり記憶力が優れていた。基本的には一度見たものを覚えることができるらしい。
俺もその能力があったら国家試験が楽に受かっただろう。
「まぁ、勘違いかも知らないな。兄さんは食べ終わったかい?」
「ああ、もう腹一杯だ」
「あれからデザートも追加注文していたもんね」
パスタに続きフレンチトーストも三人前食べており、マルヴェインの底無し沼のような胃袋はやっと満たされていた。
「じゃあ、私達はこれで帰りますね!」
「何か困ったことがあったら俺達を頼ると良い」
「これだけお客さんがいたら困ることもなさそうですけどね。特に孤児院だからと言って近づいてくるような貴族には私達の名前を出してもらって構いません。後はこれを渡しておきます」
「これは何ですか?」
セヴィオンに渡されたのは、王家の紋章が入った手のひらサイズの石板だった。
「見ての通り王家の紋章が入っただけの石板です。ただ王家の庇護対象や王家にまつわる者しか持てないものですね。きっと脳もオークキングな兄さんは忘れていると思ったから私から渡しておきますね」
「誰がオークキングだ!」
「じゃあ、兄さんは用意してきたのかい?」
「……」
「まぁ、兄さんこんな性格だからね」
セヴィオンはマルヴェインを見て笑っていた。お互いが足りない部分を補っているのだろう。
「では、また今度来るよ」
そう言って王族三人は帰って行った。
♢
「それでアスクリス公爵家令嬢だと思った子って誰ですか?」
セヴィオン兄さんは辺りを見渡してある少女を指差した。
「えっ、あの子ですか!?」
私は指先を追うとそこには知っている少女がいた。
「私もケントも仲良いですがそれは本当なんですか?」
「わたしの記憶が間違ってなければだけどね」
「セヴィオン兄さんが間違えることって基本的にはないですもんね」
私が考えこんでいると、兄さんは私の頭を撫でてきた。
「あはは、私は弟から絶対的な信頼を得ているね」
「実際セヴィオン兄さんより頭が切れて、記憶力が良い人って見たことないですからね」
「二人して何を話してるんだー? またどこかに食べに行くのか?」
そんな中マルヴェイン兄さんが肩を組んできた。
「……」
「うん、マルヴェイン兄さんがこんな人だから争う気にもならないですよね」
「こんな人でもカリスマ性と人をまとめるのは天才的な人ですもんね」
「ん? なんだ二人してそんなに褒めても俺の飯はやらんぞ?」
セヴィオン兄さんと私はマルヴェイン兄さんを見てため息をつくのだった。
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