第168話 家族会議
マルクスが結婚するという話を聞き、俺はマルクスとラルフ三人で話し合っていた。
「なんで言ってくれなかったんですか?」
「あっ……それはすまんな」
どこかマルクスは不安げな表情をしている。俺が怒っていると思っているのだろうか。
「俺が家族って言ってここまで連れて来たのに、カレンとの子供が出来たらお前らにまで迷惑かけて……」
マルクスは俺らに伝えないといけないとは分かっていたが、一緒に連れてきたこともあり伝えられなかったのだろう。
「別におめでたいことだからいいじゃないですか? ね、ラルフ?」
たしかに保護者としての責任はある。ただ、おめでたいことには変わりない。
「んー、そうだな。どっちにしても冒険者になれたのはマルクスさんとケントのおかげだし、一人で働くのは変わらないからな」
ラルフはあっけらかんとしていた。
「いや、でも……」
「俺達離れていても家族ですよね?」
「ああ、そうだな」
「なら、別にいいじゃないですか? マルクスさんはまた新たに守る者が増えただけですし、俺もラルフもロニーさんが来なくてももう二人で生活していけますよ」
最近は異世界食堂のこともあり、俺達は忙しなく働いてる。
やっとマルクスがいなくても、二人で生活できる資金と場所は確保できるようになっていた。
「ああ、そうか」
次第にマルクスの顔も晴れてきていた。最近依頼で顔を合わせなかったのは合わせづらいのもあったのだろう。
「だから元気な子が産まれる前にちゃんと準備してくださいね」
「ほんとそうだな」
「産まれても家がないってなったら、子供が可哀想だしな。オラの家も貧乏だったけど、家族みんな居れば幸せだったよ」
ラルフは窓から外を見ながら、何か思い出しているのだろう。その表情は笑顔だった。
「二人ともありがとな」
「辛気臭いのはやめてください! 僕達の家も決めなきゃいけないからこれからも大変なんですよ」
「まぁ、オラはだいぶ前からカレンさんのお腹の中に子どもがいたのは知ってたけどね」
「えっ!?」
俺とマルクスはラルフの話を聞いて固まっていた。そういえばラルフのスキルって放射線技師だった。
スキルを使って子どもに悪影響がなければいいんだが……。
それにしてもラルフのあっけらかんとした態度はだいぶ前から覚悟はしていたのだろう。
「そうか……。そういえばロニーが王都で門番として働けることが決まったんだってな」
「そうそう、急に言い出したから昨日びっくりしましたよ」
「びっくりしたのはオラもだけどね。急にケント達が来て、アニーさんが私の子になりなさいって――」
昨日アニーとロニーのマッサージを終えると、そのまま四人はラルフの元へ向かった。
「あはは、二人は結構強引だったね」
「決定事項かのように有無も言えなかったぞ? まぁ、それでもみんなと一緒に居れるならいいな」
「さすがケントの家族って感じだね。多少強引なのも嫌な感じはしないし」
ラルフも特にロニー達家族に対して、嫌な印象を受けていなかった。
「俺もアリミアも二人の子じゃないからラルフが加わっても変わらないだろうね。それでマルクスさんは今後どうするんですか?」
「どうするって?」
「だって子供を産むってなるとカレンさんはトラッセン街に戻るんですよね?」
俺は前世の知識から出産前に里帰りをすることを思い出していた。
「いや、特にはないぞ? まだ、そんなに話し合ってはないけど、破滅のトラッセンも活動場所を王都にしたらしいから、俺も王都にしようと思う」
破滅のトラッセンはカレンの様子がおかしいと感じてから王都に留まっていた。
そのためカレンが妊娠したのを聞いてからは、いつでも復帰できるように王都を活動拠点に変更していた。
いつ戻るのか疑問だったがずっと王都にいたのはそういうことらしい。
「じゃあ、みんな王都に住むことになるんですね」
「ああ、そうなるな。みんなも王都にいるから特にカレンがトラッセン街に帰ることはないと思うぞ」
「そんなに生活が変わることはないんだな。 ケントの家族が来て一緒に住むぐらいか」
「そういうことになるね」
話しが終わると俺はラルフに目で合図を送った。
それを理解したラルフは頷き、俺達は立ち上がりマルクスの前に並んだ。
「マルクスさん、今までありがとうございました」
俺とラルフはマルクスに頭を下げた。本当に俺達はマルクスに出会えて感謝している。その気持ちは前から変わらない。
「な? どうしたんだ」
突然の出来事にマルクスは驚いていた。
「マルクスさんのおかげでここまでやってこれました」
「オラはさっき言ったけど二人に助けられたからね。あのまま生活してたら犯罪奴隷になっていたのかもしれないし」
「そうか……」
そんな俺達の様子を見ていたマルクスはどこか安堵の表情をしていた。
「俺はケントに出会って、もう戻れないと思った冒険者に復帰させてもらえた。そこからラルフと会って久しぶりに家族というのを感じた」
マルクスも突然立ち上がり俺達を抱きしめた。
「礼を言うのは俺の方だ。二人とも家族になってくれてありがとう」
どこかマルクスに抱きつかれて俺とラルフは照れくさくなった。
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