第155話 オーク……ワーク子爵
ハンバーグの材料は店に入ると威張り散らしていた。いや、あれはワーク子爵だったな。
「早く席を用意しろ！」
「そうだ、そうだ！」
「平民は貴族に席を譲るべきだ」
ワーク子爵は近くにいた女性と子供を掴み退かそうとしていた。
――ガタッ！
どこからか椅子が倒れる音がした。
「すみません！ すぐ帰りますので子供には……」
俺はすぐにその場に向かった。しかし、俺よりも彼の方が動きは早かった。
「分かれば……なんだ？」
ワーク子爵は肩を掴まれていた。振り返った先にはある人物がいて顔が真っ青になっていた。
「ワーク子爵……いや、オーク子爵かな？」
ワーク子爵を掴んでいたのはマルヴェインだった。
俺が聞き間違えていたのをしっかりと聞いていた。
「ど……どうしてマルヴェイン様がこんなところに――」
「俺がどこにいても勝手だろ？ しかも、あいつらも一緒だ」
俺は後ろを振り返るとセヴィオンは手を振っていた。
「んで、お前は何をやってるんだ？」
「いや、わしは席に座ろうかと思いまして……」
「ほぉ？ その女性達を無理やり帰らせてか？」
「いや……」
「順番も守ってなかったよな？ 俺達もちゃんと並んだぞ」
次第にワーク子爵は冷や汗が流れ落ちていた。
「あっ、肉汁だ……」
「くくく」
いつのまにか俺の隣にセヴィオンとガレインが立っていた。
「やはり君は面白いね」
セヴィオンは俺を見つめていた。どこか実験動物になった気分だ。
「それでお前達は俺が庇護しているこの店になんか用か？」
「庇護……お前帰るぞ！」
「パパ！ まだ何も食べてないよ」
「いいから早く帰るぞ」
ワーク子爵は子供の手を引っ張り、すぐに店から出て行った。
「これだから勘違いして威張った貴族は嫌いだ」
マルヴェインはドカドカと席に戻り、お代わりしたハンバーグをまた何事もなかったように食べ始めた。
王族だからなのかすごい正義感が強かった。
「マルヴェインさんありがとうございます」
「ああ、全然構わない。むしろ庇護すると言ったからこれからも続けてくれ」
「えっ？」
マルヴェインの言葉に俺は混乱していた。
「まぁ、生誕祭限定じゃ勿体無いしな。今度打ち合いをするために王城に来てくれ」
「打ち合わせですね。まずは孤児院の責任者に伝えておきます」
俺は王族の庇護の対象になったことをエイマーへ伝えに行った。
「ははは、頭もオーガなマルヴェイン兄さんが頑張りましたね」
「おいおい、誰がオーガだ」
「今の話の内容だと絶対ケントは気づいてないですよね？」
「きっと頭が真っ白で気づいてないだろうな。打ち合いを打ち合わせだと思ってたからな」
俺は急いでエイマーを連れてきた。
「お待たせしました」
「いや、構わんよ」
「今後も続けて欲しいと王族から意見が出ているとケントから聞いたんですが……」
「ああ、こんなうまいものを期間限定にするのは勿体ないからな。作ってるのはここの孤児院だろ？」
「はい、料理関係のスキルを持っている子達が勉強の一環で食事処をやっています」
「ならそのまま毎日じゃなくてもいいから続けてくれ。詳しい話はまたケントと王城に来てもらうことになるがいいか？」
「わかりました。それまでに準備することはありますか？」
「出来ることなら商業ギルドへ申請手続きを済ませておいてくれ。名前が必要ならまた話し合う時に持ってきてくれ」
「はい、今後ともよろしくお願いします」
「じゃあ、俺らは帰るな。今度楽しみにしてるぞ」
「俺も君には期待してるよ」
「楽しみ？ 期待？」
「ケントごめんね」
俺は何を言われているのか分からなかった。
オーク子爵……いや、ワーク子爵のきっかけで孤児院は今後も引き続き食事処を行うことになった。
これで安定した孤児院の収入源を得ることができるだろう。
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