第146話 裏側 【side:領主】
とある屋敷では男の怒声が大きく響いていた。
「くそ! なんで力が湧いてこないんだ! あれだけ準備をしたらもっと強くなるはずだろ」
テーブルの真ん中に置かれた地図を男は投げ捨てた。ひらりと落ちる地図には王都を中心に三ヶ所に分かれて円が書かれている。
どうやら地図に印がついているところに何かを設置したようだ。
その様子を静かに見ていた妖艶な女は口を開いた。
「そんなに興奮しなくてもまた作ればいいじゃない。私もあなたに強力するわよ」
「協力するって言っ――」
「そんなに焦らなくていいわよ」
女は自分の唇を男の唇に当てキスをした。言葉を遮るためにした口づけ一つ一つが情熱的だ。
「どうやら私が興奮しすぎたようだ」
男は椅子に腰を掛けると全身の緊張が抜け、手が力なく垂れ下がった。
「落ち着いたならよかったわ。それにしてもあなたのスキル【騎士】は変わっているわね」
「ああ、俺が気づいた時には唯一無二のスキルになっていたからな」
男はごく一般的なスキル【騎士】だった。しかし、一度守るものを殺した男は自分の力が異質なことに気づいた。
それは殺した相手の能力の一部を奪えるということだ。
そしてそのスキルは自分が殺さなくても、自分と魔力を繋げた者であれば自分自身の力に直接吸収されるという特徴もあった。
「でも疲れて動けなくなったあなたも嫌いじゃないわよ」
女は彼の上に跨ると自身の服を脱ぎ始めた。
「私の魔力を少し分けてあげるわ」
「やはり私の愛するロザリオは他のやつらとは違うな」
「ふふふ、そうね。あんな使えないやつらよりは私の方があなたを満足させてあげられるわ」
女の視線の先には逃げられないように手枷足枷の代わりなのか、無数に剣が刺さった人間が壁に固定されていた。
わずかに息はしているものの、小さな声でずっと"早く殺してくれ"と言っている。
「だって私はあなたが愛した妻なのよ」
そして本来のスキルである能力が引き継がれ、愛した人物であれば魔力を共有することができるのだ。
方法はたくさんあり、体を重ねることで魔力を吸収できるのもその一つだ。
その日の夜も屋敷には女の甲高い声が響いていた。
♢
「それにしても今回はたくさん魔力を使ったのね」
「ああ、三ヶ所設置することでより魔力を奪うことができるようにしたんだが、魔力のパスがうまく繋がらないんだ」
「それって……」
「魔物が倒されたということだ。一つはパスが繋がってないはないから魔素の吸収が上手くいかずに不発になったんだろう」
「今回は魔物の成長も間に合わなかったのね。ドラゴンとか強い魔物に装着できなら一番――」
「ははは、さすがロザリオだ。でもドラゴンに着けたら私達も死んでしまうよ」
「それもそうね。私はあなたと離れたくないわ」
女は優しく男に抱きついた。昨日は激しく抱き合った男はまだ女に魅了されていた。
「いつになっても君は可愛いな」
「可愛いのはあなたよ」
「私かい?」
「ええ」
テーブルには怪しく光る首輪が置いてあった。男が魅了されていたのは本当に女なのか、それとも光る首輪なのかは後に知ることとなる。
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