第143話 異世界病院
気づいたらどれだけ時間が経ったのだろうか。次第に痛みで叫ぶ声よりも俺達異世界病院に所属する人の声が多くなった。
「ケントこっちは大丈夫だ! 次はあっちに行ってくれ」
「わかりました」
「嬢ちゃん達木と包帯を集めてきたよ」
「ありがとうございます」
子ども達も何度も同じ作業を繰り返しているからか手つきが慣れてきたようだ。
――二時間後
倒れていた人達は息が落ち着き始め、基本的な治療も含め亡くなった人は誰一人としていなかった。
「ガレインお疲れ様」
ガレインに声をかけるとぐったりとしていた。
「ぐふっ! もう動けないです。口の中も甘いよ」
さっきからずっとガレインはゲップをしている。
治療をしつつ魔力が無くなったらギルドが用意した魔力ポーションと王国魔力蜜で魔力を回復し続けていた。
「あはは、俺も無理だ」
「口の中が甘いのか苦いのかわからないぞ」
三人ともずっとスキルを使い続けていたため、魔力の使い過ぎて動けなくなっていた。
魔力ポーションは薬草を主に調合しているため、漢方薬と似たような味がした。そのため魔力ポーションと王国魔力蜜を交互の摂取してどうにか魔力を維持することができた。
「三人とも助かったのじゃ! ギルドマスターとして礼を言う」
カタリーナは俺達に近づき頭を下げた。
「俺からも礼を言う」
次第に同じ討伐組織に所属する冒険者や知り合いである者達が頭を下げてきた。
冒険者達は仲間思いの人が多いのが一目でわかるほどだ。
「これからも怪我を中心に異世界病院をよろしくお願いします」
俺はしっかり組織の宣伝すると冒険者達は笑っていた。
「それから孤児院の子ども達にもできればお礼を……」
「そうじゃな。ウルとラル以外はまだ冒険者ではないからな」
途中から遅れてウルのラルも駆けつけている。
カタリーナは少し考えると俺が言っていたお金が足りないということを覚えていたのだろう。
「ならお金は渡せないが冒険者ギルドが経営しているお店での食事を孤児院の子どもおよびスタッフには3ヶ月ほどタダに提供するのはどうじゃ?」
満足に食事を取れない子ども達のことを思い、孤児院全ての者に報酬を出すことにした。
「えっ!? 毎日食べに来てもいいのか?」
カタリーナの言葉を聞いていたマーク達はみんなと元気にはしゃいでいた。お金が足りないから質素で少量しか食べてないからな……。
「それから冒険者として異世界病院で今後も働く子は冒険者登録と指導を行う。フェーズはいるか」
呼ばれたのは久しぶりに冒険者ギルドに来て、治療の手伝いをさせられていたフェーズだ。
治療のことで精一杯だったがフェーズも彼なりにみんなの手伝いに参加していた。
「フェーズを今日より仮冒険者を中心に指導を行ってもらう」
簡単に言えば、冒険者ギルドでの働き先と以前の功績を考慮し後輩指導をギルドで受け持つ方向性となった。
以前までは先輩冒険者に付いて指導してもらっていたのが、ギルドが責任を持って指導することになったのだ。
それも異世界病院が認められ、外れスキルでも自衛できる程度の能力と知識をつけてもらうためのものだろう。
これでフェーズの活動の幅は広がって社会に参加できるようになる。リハビリは社会に復帰させることを目標にすることもあるからある意味目標達成だろう。
「いや、俺は今日たまたま来ただけ――」
「フェーズよ……もう閉じこもらず戻ってこい。お前が今後の冒険者達の先駆者になるんだ」
フェーズは足を切断してから、以前と比べて動けなくなったため外の世界を拒絶していた。
実際、冒険者で怪我をして引退する人もいれば四肢欠損までいくと命を絶つ者も多い。
フェーズが活動することによって、そういった人達の希望になるとドランは思っていたようだ。
「フェーズさん良かったですね! でも、リハビリはまだまだ続くので頑張りましょうね」
「ああ……またあの地獄がやってくるのか」
俺の一言にフェーズは現実に戻されていた。それにしても俺のリハビリが地獄とはどういうことだろうか。
「まぁ、ここにいる人達も回復したらリハビリが必要ですしね……」
「被害者が増えるのか……」
俺はフェーズを強く睨みつけた。そんな彼は俺に睨みつけられて笑っていた。
ああ、この人ドMなんだろう。俺はそう確信した。
今回、全ての人の命は取り止めたが俺達の能力と回復量では全てが元に戻るのは困難だろう。
ある程度骨を整復して仮骨形成程度まで促しても、完璧に治療されていない者が多い。
「じゃあ、これで戻るのでまた何かあれば連絡ください」
俺達は扉に向かおうとすると突然大きく扉が開いた。そこには大きくお腹が出て踏ん反り返った男達が立っていた。
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