第141話 味方
俺達はカタリーナに呼ばれ、ギルドマスターの部屋に移動した。そりゃー、あんな人前で大掛かりな治療をしたし、ガレインが王族とバラしたから仕方ない。
それにしてもあの時のガレインはカッコよかった。今は俺が背負って近くの椅子で座っているけどな。
部屋に着くとカタリーナは防音の魔道具を取り出し魔力を込めた。
次第に部屋全体が魔道具の魔力に包まれるとカタリーナは開口一番に説明をした。
「ガレインのあのスキルはなんなのじゃ。ケントのは事前に聴いておるからまだわかるのじゃが……」
やっぱり気になったのはガレインのスキルだ。スキルが発動出来ないことは知れ渡っているため、国王と元同じパーティーであるカタリーナは確実に知っている。
そう思っていた人物が急にスキルを発動させ、死ぬ寸前の人を助けたから驚きしかないだろう。
「実はスキルが発動できるようになったんです」
「いつからなのじゃ?」
「ケント達に会ってからです」
カタリーナは俺とラルフを見るとため息をついた。
「じゃあ、冒険者に登録する時には使えていたってことじゃな?」
「はい」
ガレインは冒険者ギルドを登録するにあたって、スキルが使えないという理由と王族という立場で冒険者ランクを上げられない処置が取られていた。
採取に行って命を落としたらそれは冒険者ギルドだけで責任は負えないからだ。
「それでなんで黙っていたのじゃ?」
「新しい戦力に飛びついた貴族の派閥に巻き込まれるから黙ってました」
「そういうことか……。じゃが、それなら今回のことは広まらないように冒険者ギルドにいた人達の口を塞ぐ必要があるのじゃな」
「それはしなくても大丈夫です」
ガレインの発言にカタリーナは驚いていた。
今まで貴族の派閥に巻き込まれないようにしていたのを急に考えが変わったと言われれば誰でも驚くだろう。
「なんでなのじゃ?」
「私に貴族も含めてですが仲間が欲しいと思ったからです。カタリーナさんはアスクリス公爵家はご存知ですか?」
「あの南の領地をまとめている公爵家だったかな? 元々現当主が冒険者で妻も冒険者だったはずじゃが、その公爵家がどうかしたのか?」
「私は彼が裏でやっていることを止めたいんです」
ガレインは孤児院の運営費が着服されているかもしれないと話をした。
そして、外れスキルの捨てられた子達の中にも俺達と同様のスキル持ちがいることを伝えた。
「だから自身の戦力が欲しいということじゃな。それにしても、ケントと同じスキルとはすごいことじゃな」
「すごいかはわからないけど、発動させるまでに勉強が必要だからそれを教える環境が欲しいんですよ。結局お金が必要だから依頼を見つけながら孤児院の子達が勉強できる環境が必要かなって」
「それで異世界病院を作ったってことじゃな」
俺は小さく頷いた。
「お主一体何歳なんじゃ? 中に妖精が精霊でも入っているのか?」
カタリーナは俺の考えに疑問を抱いているのだろう。教育されたガレインならまだ分かるが、その辺の十一歳の子どもがここまで考えることができないだろうからな。
「ポケットの中には入ってますよ?」
俺はとぼけたようにコロポを胸ポケットから取り出した。カタリーナはつまらなさそうに話を戻した。
「それで今後はどうするつもりなのじゃ?」
「孤児院の子ども達が少しずつスキルを使えるようになれば冒険者として活動しながら治療できる機関ができると思います」
外れスキルの子ども達がスキルを発動できるようになれば、冒険者ギルドに登録し今後は冒険者として活動する可能性が高い。
教会とは別の機関にはなるが、冒険者に何かあってもすぐに治療ができる。
あとは働ける期間が長くなれば長いほど、何かあったときに人数の面で対応ができるし、後輩育成ができればさらに死亡率は下がるだろう。
「そのためにも孤児院がしっかり運営できる費用が欲しいってことなのじゃな。あいつには相談しているのか?」
カタリーナの問いにガレインは首を横に振った。
「証拠が少ないので段階で伝えれば確実に関わっている貴族達が有耶無耶にして事実が消されるかも知れないです」
「アスクリス公爵家の恩恵を受けたい貴族達が協力する可能性もあるってことか……」
「そうなんです。だけど調べるにしても限度があるので王位継承に興味はないですが、自身の派閥を持つことでどうにか暴ければ孤児院を変えれないかと思っ――」
ガレインは自身に権力をつけることで、もう少し貴族社会でも動きやすいように準備をしていた。
その中のはじめの段階としてスキルの発動を知らせることだった。
――トントン!
「ギルドマスター緊急事態です」
話の最中に外から扉をノックする音と受付嬢の声が聞こえてきた。すぐにカタリーナは魔道具を解除し扉を開けた。
「エール街に討伐に行っていた方達が帰って来ましたが損傷が酷い状態です」
エール街は王都より東にあり、ドラン達が魔物討伐に行った街の方だ。
ドランはネロを助けるために一人で抱えて急いで戻ってきただけだった。
「それで魔物はどうにかなったのか?」
「討伐は出来たのですがこれから負傷者達が運ばれるそうです」
「わかったのじゃ。全員に負傷者を手当てする準備をするように伝えるのじゃ。すぐに教会の人達を呼ぶのじゃ」
カタリーナが指示を出すのに合わせ、俺は手を挙げた。
「孤児院の勉強している子達にも来るように伝達をお願いします」
「孤児院?」
「孤児院の子達に今回のような時に助けになるスキルを持っている子がたくさんいます」
孤児院の中にはスキル【看護】待ちの子もいた。
スキルも発動できてはいないし、まだ現場に出ることもできないが、実際の現場を目で見て経験を積む機会にはなると俺は思った。
簡単に言えば前世であった見学実習に近い形だ。
「教会にはネロのときに呼んだから、そのままさらに人数を追加すると同時に孤児院にも連絡を急ぐのじゃ」
カタリーナに指示された受付嬢はすぐに戻っていった。
「三人ともここからが戦いなのじゃ!」
「ガレインは名前を広げる良い機会になりそうだね」
「もう、魔力は少なくなってきているけどね」
ガレインは椅子から立ち上がるとふらつきながらも俺に近づいた。
「そこは王国魔力蜜があるからね」
「ははは、それは良い提案だね」
「ラルフも頑張ってよ! 詳細がわからないと治療出来ないからね」
「そこはオラに任せてよ!」
「じゃあ、先に準備しに行ってきます」
俺達は討伐依頼から戻ってくる冒険者の治療をする準備のためにギルドマスターの部屋を後にした。
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