第76話 スローライフ?
一夜だけ宿屋に泊まると朝方には出発していた。
乗り合い馬車に特に乗る人もいないため、人数は変わらない。
「なんか元気になったな!」
休憩している時にリモンが話しかけてきた。
「はい。リモンさんにもご迷惑おかけしました」
「ん? そんな迷惑とも思ってないぞ? むしろ俺の方が迷惑かけてるからな」
「迷惑だなんて……あっ、樽を貰うの忘れてた!」
リモンの治療のために店主に声をかけたのに色々なことがあって本来の目的を忘れていた。
「だろうと思ってもらっておいたぞ」
リモンは馬車の奥を指差すとそこには樽がいくつか置いてあった。
「ありがとうございます」
異次元医療鞄が一枠空いていたため、そのまま空間へ片付けた。
「えっ? アイテムボックスも使えたんか?」
「あっ……」
俺は無意識で使っていたため、初めてリモンに異次元医療鞄をみられてしまった。
「ちゃんとした冒険者になったら絶対俺達とパーティーを組んでくれ! 魔法も使えるし、荷物も持たなくて良いって最高じゃないか! あっ、ケントのスキルだけが目的じゃないからな! それだけはわかってくれよ」
あまりにも必死なリモンに俺はいつのまにか笑っていた。冒険者になるには後二年程度はかかるけどな……。
「おーい、リモン戻ってこーい」
パーティーメンバーから声がかかり、リモンは見回りに戻った。
♢
今日は初めての野営だが基本的な道具は各々のパーティーや御者が準備している。乗り合い馬車でも結構値が張るのはそういうところにお金がかかるからだ。
「一応皆さんの分の毛布とテント数個は用意してありますが、食品に関してはパンと干し肉しか用意していません」
「んー、しっかりと肉も食べたいしな。各々役割を分担しようか」
御者は用意しているが依頼を受けた冒険者が有能なほど道中が楽になるのだ。
リモンの一言で子どもだけど冒険者の仮登録をしている俺とラルフを含めて、七人で食料・水分・寝床の準備となった。
「えーっとまずは水の確保と食料の確保なんだが――」
「あっ、水なら出せますよ」
俺は水治療法で水球を出した。魔法だからすぐに消すこともできるが飲み水にも使えることは事前にわかっている。
俺の中でも感覚的には通常より便利な生活魔法という位置づけだ。これのおかげで異世界スローライフを夢見ることができるしな。
食料はリモン達のパーティーで調達、寝床は俺達三人がマルクスに教えてもらいながら受け持つことになった。
「じゃあケントはスキルで水をこの容器に出してる間に俺とラルフがテントを張ってくる」
マルクスはラルフを連れてテントを立てに行った。
「水を出すって言ってもすぐに終わるんだけどな……」
御者に樽を取り出してもらい水を入れた。
普段お風呂の準備をしている俺にとっては樽に水を入れるのは簡単だ。
「すみません、樽って他にもありますか?」
特にやることもないため、御者にお風呂を準備するために声をかけた。
「ああ、あるけど何に使うんだ?」
「お風呂の準備をしようと思って――」
「お風呂ですか?」
俺の発言に御者は驚いていた。基本的に貴族しかお風呂は入れないし、移動中は水浴びもできるかわからない環境だ。
「じゃあこれを使ってください」
「ありがとうございます」
俺は出してもらったドラム缶にお湯を張っていると、テントを張り終わったマルクスとラルフが戻ってきた。
「お風呂を作るんか?」
「やることなくて暇なんです」
「なら俺は見張りに使う焚き火のために木材を集めてくる」
「お願いします!」
今度は木材を探しに近場の林に入り、木材を回収しに行った。よく考えれば俺だけ何もしていないほど楽をしている。
「そういえば調味料もありますか?」
「何に使うんだ?」
「一応我が家の料理番は俺がやってるので簡単な物であれば味付けを整え――」
「ぜひぜひお願いします! いやー、冒険者は皆さん腕っ節ばかりなので料理ができる方がいて助かりました」
「ははは、任せてください」
この世界には料理ができる男性は珍しいようだ。俺は水の確保以外にお風呂の準備と食事を作ることになった。
初めての野営に俺が異世界に求めていたスローライフ?にテンションは上がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます