第68話 選択
バイオレンスベアーが出現し数週間が経った。その後はいつものように森は落ち着いていた。
だが、落ち着かずある問題が出てきた人もいる。
「マルクスさーん! 私と付き合ってくださいよ」
「お前みたいなガキは遠慮しておく」
「ケントくんからも何か言ってよ。私これでも巨乳なのよ!」
「はぁー」
あれからマルクスはバイオレンスベアーから助けた冒険者に何気ない日常が襲われていた。正確に言うとストーカーされているのだ。
彼女の名前はカレンと言っていたが、どこも可憐さがない。
カレンからの猛アプローチを躱しているが、逃げ切れるか捕まるか冒険者達はどうなるかは周りは見守っていた。その二択で賭けをしているからだろう。
マルクスも初婚にしては遅いがそろそろ落ち着いた方が良いと俺も思っている。
冒険者みたいな命懸けの人達は揃いも揃って性欲が強い。前世は成人だったから夜にこっそり抜け出して何をしているか俺は知っているぞ。
また、他の変化と言えばラルフがついに冒険者となった。
ついこの間水晶玉の色が黄色になったばかりだと思ったら昨日透明になった。アスクレ治療院にも従業員が増えラルフの仕事はたまに依頼が来る時だけだ。
依頼もあれから数を増やし多い時は三つほどこなしていた。
今は街を歩くとラルフに声をかける商店街の人も増えてきた。
肝心の俺はというと……。
「ケント今日はリハビリどうするんだ?」
「キーランドさんはこのまま自主トレですよ」
「他に人が居ないのになんでだ?」
相変わらず患者は増えずキーランドが通い詰めていた。
冒険者からのケントの評判はあの治療で広まったものの、まだリハビリは馴染みがなく冒険者が来ることない。
そしてスキルも特に変化はない。
――――――――――――――――――――
《スキル》
固有スキル【理学療法】
医療ポイント:150
回復ポイント:1
Lv.1 慈愛の心
Lv.2 異次元医療鞄
Lv.3 水治療法
Lv.4 ????
Lv.5 ????
――――――――――――――――――――
異次元医療鞄から新しい道具を出そうか考えたが、それよりもLv.4解放に回すことにした。
何かわからない武器よりは新しいスキルを解放する方がスキルの強化になるからだ。
次のスキル解放には400ポイント必要になるためあと250ポイント必要になる。
今日はマルクスに話があると言われ、仕事終わりにマルクスを待っていた。
「実は拠点を王都に変えて冒険者ランクをAランクに上げようと思っている」
「やっとですね」
「おっ、いいじゃないですか」
元々Aランクだったからランクを上げることは俺も賛成だ。
「それでお前達にどうするか決めてもらおうと思う」
「俺達?」
その言葉に俺とマルクスは首を傾けた。
「ラルフも冒険者になったから、お前達は二人でも生活はできるだろう?」
「そうですね。ラルフももう依頼料は貰えるもんね?」
「最近は三件受けるから一日に金貨一枚は貰える計算になるぞ」
「ラルフ頑張ってるな!」
「へへ!」
褒められたラルフは鼻の下を掻きながら尻尾をバタバタと振っていた。
「だから、お前らに決めてもらおうと思ってな」
「お前らはどうす--」
「付いて行きますよ?」
俺達は口を揃えて答えた。もちろん俺が離れることは特にないからな。
「えっ?」
その答えにマルクスは驚いていた。多少悩む可能性を考えていたのだろう。
ラルフは自分の家があるため残る可能性があった。それを即答で返されるとはマルクスも思ってなかった。
俺とラルフはこういうことがあった時のために事前に話し合っていた。そのためすでに結果は出ていたのだ。
「それよりもカレンさんはいいんですか?」
「なぁ!? なんで今あいつが出てくるんだよ!」
思ったよりマルクスの反応は焦っていた。
「だって付き合うのもそろそろじゃんね? ラルフもそう思うでしょ?」
「そうだな」
「お前らー!」
マルクスはワナワナと震えている。気持ちに気付いてないのは本人だけかも知れない。
「ちゃんと言っておいてくださいね。なんかあって色々言われるの俺なんですからね」
俺は治療した冒険者のリモンとよく関わることが増えた。
パーティーメンバーであるカレンの話を聞かされるのだ。どれもがあのうるさい女をどうにかしてという文句ばかり。
リモンもリハビリが必要だと思っていたが思ったよりも回復がはやく特に必要がなかった。
「王都にはいつ行く予定ですか? 依頼を結構受けてるので……」
「あー、ラルフはいくつか依頼受けていたね。今は何個受けてるんだ?」
「今は五件だよ。二日もあれば達成するので三日後には行けますよ」
「ならその後に出発出来るようにギルドには話を通しておくよ。お前らも依頼主達にも話しておけよ」
「はーい」
「あっ、マルクスさんは絶対カレンさんに言っておいてくださいね」
「ケント!」
「あはは」
「お前らは……ほんとに元気になったな」
マルクスは俺達を見て微笑んでいた。
ボロボロで痩せこけていた俺と盗みを働き必死に生きていたラルフはいつのまにか笑顔で笑えるようになっていた。
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