鮮血の凶刃
敵の指揮官っぽい赤い魔物を追いかけ、戦場から少し離れた洞窟へ入る。不意に後ろから声をかけられる。
団長「小僧、あの赤いのは?」
俺「中に抜け道が無いならこの奥だ。」
団長「そんな獲物で大丈夫か?」
俺が持ってる槍の話だ。何しろコボルトが作った槍で、刃物を棒の先に紐で括り付けただけの物だ。一応心許ないから途中で片手剣も拾っては来たが
俺「もうここまで来たし、今更気にしても仕方ないと思う。」
団長「俺の鉈、貸してやるか?」
俺「あんたはどうするんだよ。丸腰だと後ろから襲われたら対処出来ないだろ。」
団長「そうだが、それはお前も同じだろう?・・・・そう言えばまだお前の名前聞いて無かったな。俺はゲイツだ。」
俺「え?シ、シリウス。」
ゲイツ「小洒落た名前だな。」
俺「五月蝿いな。」
緊張感の無い感じでそんな話をしながら奥に向かう。自然に出来た段差を使い、椅子に座る様に腰掛けている魔物を見つける。例の赤い奴だ。
赤い魔物「ヨク来タナ。」
ゲイツ「うぉ!喋った!」
俺も驚いた。人の言葉を話す魔物は初めて見た。地球でプレイしていたゲームでは、魔族が話していたシーンはあったが魔物が話をするのは見た事がない。これも干渉とやらの影響かな?
ゲイツ「お前が指揮官だな?」
赤い魔物「オ前達ハドチラガ大将ダ?」
俺「このオッサン」
横にいる団長を指差す。
ゲイツ「おい!いきなり俺を売るな!」
俺「今の売った内に入るか?聞かれたから答えただけだ。」
ゲイツ「はぁ~、お前はすごいのかすごく無いのかよく分からんな。」
赤い魔物「ダガ私ハ子供、オ前ノ方ガ気ニナル。何者ダ?」
俺「ただの子供だ。」
ゲイツ「ああ、ただのクソガキだ。」
このおっさん。酷い言い草だな。この際どうでも良いか。
ゲイツ「ふ〜む。」
俺「何だよ?」
ゲイツ「いや、あいつの事を見た事は無いんだが、何となく既視感がある。」
俺「既視感?誰かから特徴を聞いたとか?」
ゲイツ「ああ、多分それだ!赤い化け物か。何だっけな?」
団長が魔物を脚から頭まで見る。しばらくすると目を見開く。
ゲイツ「鮮血の凶刃!」
俺「誰?」
ゲイツ「いや、多分、こいつのあだ名。」
赤い魔物「以前、人ガソンナ言葉ヲ発シテイタナ。」
多分って何だよ?とか考えてると正解だったらしい。魔物が肯定した。
ゲイツ「他の傭兵連中から聞いたが、元々の赤い見た目と血の海を作るって話から、鮮血の凶刃って付いた名だ。」
とにかくこいつを倒せばこの"氾濫"は終了だろう。武器を構える。
ゲイツ「おい待て!こいつは俺がやる。お前は下がってろ。」
俺「おっさん。入口の方から他の魔物が来てるぞ。」
団長の方が入口に近い、雑魚達の相手は団長に任せよう。
ゲイツ「な!畜生!こんな時に!」
俺「そっちは任せるぞ。」
ゲイツ「おい小僧!ふざけんな!そんな異名のついた魔物をガキに任せられるか!」
そう言いながら団長はゴブリンやコボルトの相手を始めた。
こっちもそろそろ始めるか、"凶刃"と言われた魔物は青龍刀の様な反り返った剣を抜き俺を睨む。俺も槍を構え、魔物を睨む。しばらく睨み合いをしていると水滴が落ちる音がした。その瞬間奴が剣を振り上げ向かって来る。俺は下から切り上げる様に槍を振り、奴の剣に槍の刃先を当て弾く。俺は直ぐに槍を引き、突きを繰り出すが奴は右に移動して避ける。奴を追いかけ俺は槍を右に薙ぎ払うが、奴はしゃがんで避ける。続けて俺に近付くと下から剣を切り上げる。俺はスウェーで避けるが槍は間に合わず柄が真ん中から真っ二つになる。
俺は気を取り直し、元は槍だった2本の棒をカリスティックの様に使う。奴が振る剣を左手に持つ元槍で止める。その隙に右手にある残りの棒切れで奴の顔面を狙うが、奴はそれを伏せて躱し体勢を整え突きを放つ。俺は右で払い退け透かさず左ので殴る。ここでやっと攻撃が当たる。続けて右を腹に当て、左で顎を跳ね上げる。今度は左右同時に振り下ろし両肩に叩きつけるが、ここでとうとう元槍が粉々になる。俺は直ぐにさっき拾った片手剣を抜き、体勢を整え距離を取る。
アイツの剣、それなりに使っているだろうがまだ綺麗な方だ。だけど俺の持っている剣はゴブリンが使っていた手入れを一切していない剣だ。俺も面倒臭がりだから手入れなんて殆どしない。あまり偉そうな事は言えないが、こんな粗悪な剣じゃ長くは持たないだろう。
こうなったら一発で戦闘不能に持ち込むしかない。狙うは武器破壊だ。鞘は無いが左脇に剣を持って行き、姿勢としては居合い抜きの様に構えた。奴も何か悟ったのか上段に構える。
ほぼ同時に動き、剣と剣がぶつかる。その瞬間俺の剣が奴の剣を割る。
凶刃「!」
奴も驚いているが、ここで一つ問題が起きた。剣がナマクラ過ぎて動かない。真ん中辺りまで割った後、押しても引いても動かなくなった。やべ!どうしよう?そう思った時、奴が途端に自分の剣を捨てた。手を手刀の様に束ね、空手の抜き手で突きを繰り出して来た。
あだ名に"刃"ってついてるんだから、もう少し剣にこだわれよ!とか思う。だが俺もこのままって訳にもいかない。剣を捨て、奴の突きを左腕で払う。距離を詰め右拳に[気]を集中させて魔物の腹に打ち込む
凶刃「ゴハァ!」
唾を吐きながら後ろに吹き飛ぶ。
ゲイツ「お前素手で戦った方が強いんじゃないか?」
俺「こんな奴相手に素手で戦えるか!今は緊急避難だ!」
というかオッサン余裕だな。中々の数の魔物と戦いながらこっちを観察してるとは。
奴は鳩尾に当てたからか苦しんでまだ動かない。
凶刃「ハァ、ハァ。」
肩で息をしているが今度は素手の状態で構える。俺も構えるが出来れば素手で戦うのは避けたい。どうしたものか、そう考えていると突然俺と魔物の間に雷が落ちる。
いや、ここ洞窟だぞ!何で雷?
洞窟の天井を見てそのまま視点を下ろすと紅い色で金の装飾が施された鞘に入った刀が地面に刺さっていた。直感で俺の刀だろうなと感じる。
ゲイツ「小僧!何してる!その剣を使え!」
俺は刀を鞘ごと引き抜きホルダーに収める。
凶刃「ソノ剣ハ何ダ?嫌ナ物ヲ感ジル。」
俺「多分、聖剣だろう。」
凶刃「何故貴様ノ所ニソンナ物ガ出テ来ル?」
俺「話すと長いからな。それにこれから退治するお前には関係ない。」
俺は左手で鞘を掴み刀の柄に右手を添える。今度こそ居合い抜きの構えだ。何かを感じ取ったのか魔物も構え直す。数分か数秒かの睨み合い。
そして俺達は同時に動く。奴の抜き手を躱し俺は刀を引き抜く。これで決まると思っていたが奴は素早く後ろに退がり、腕をクロスし防御体勢に入る。自分の硬い皮膚で刃を弾いてその隙に俺を仕留める気なんだろう。
だか何となく確信があった俺は構わず振り抜く、奴の狙い通り刀は奴の腕に当たるがそこから先は俺の思惑通りに進む。奴の皮膚を物ともせず一気に両腕を切断する。
凶刃「グァ!」
軽い悲鳴が上がる。俺はそのまま刀を振り上げ、奴を肩からいわゆる袈裟懸けに斬る。
ただこの判断は誤りだった。斬った反動で奴の上半身が天井の方に血を撒き散らしながら飛んだ。
俺「ぐわ!」
俺は頭から血を被る。
団長と戦っていたゴブリン達は大将が死んだのを見て大慌てで逃げ出し、洞窟の外で撤退命令と思われる角笛を吹く。
魔物達は撤退。俺の初陣は数匹の魔物と敵の大将を討ち取って終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます