第49話 私に任せて
私とサーシャさんは飛竜『ケンタッキー』に乗り城に向かって大空を飛んでいる。
「おほー!この雲を掻き分け飛び、そして肌に突き刺さるような風。爽快感が堪らない!大きな翼を広げ大空を舞うケンタ。まさにケンタッキー
「ふふ、よく判らないけど喜んでもらえて良かったわ」
そう言って笑い合う私とサーシャさん。(ホントこの飛竜って凄いよ)
「ねえねえケンタ、あなたはどこまで早く飛べるの?私はあなたの全力が見てみたいの!」
「ふふ、この子は私の言うことしか聞かないの。だから言っても無駄よ」
そんなサーシャさんの言葉を無視したかのようにケンタは「グルウァ」と一鳴きすると、大きな翼を1度だけ羽ばたかせ、今までが嘘のような猛スピードで飛んでいく。
「えっ!えーー!!」
「ケンタ凄い!最高だーー!」
そしてあっという間に着いたお城。そしてその城の上を旋回するケンタに私は言った。
「ケンタ、竜舎に行って欲しいの」
そのケンタは判ったと言わんばかりにまたもや「グルウァ」と一鳴いて急降下する。そして地上スレスレで軽く浮上して軽やかに着地した。そしてケンタは首を捻って私を見て、「どうだ凄いだろ?」といった表情をしていた。
「はぁ、この子がこんなにはしゃぐなんて珍しいわ。それになんで初対面の奏ちゃんの言うこと聞くのかしらね。もう驚きすぎて私は疲れちゃったわ」
そう言いながらケンタから降りるサーシャさん。そして私も鞍から立ち上がり、背中の上を走ってケンタの首に抱きついて「凄かったよ!ありがとう!」と言って飛び降りた。そして私はサーシャさんの前まで行った。
「じゃあサーシャさん、トムソンさんの所へ案内してもらえるかな。仲良しの飛竜の所に居るんでしょ?」
「奏ちゃん、飛竜の治療をするつもりね?」
「ふふ、これから第2ラウンドが始まるの」
「第2ラウンド?」
「さあ、早く連れていって!」
私が何を言ってるのか判らないまま歩き始めるサーシャさん。「どういうこと?」と歩きながら聞いてくるが私はただ笑って付いて行くだけだった。
「ここがそうよ。この扉の奥が負傷した飛竜を治療する場所なの」
そう言ったサーシャさんと私の前にはとても大きく頑丈そうな木製の扉がある。それも両開きで横スライドタイプの扉だ。
(ま、まさかこの扉、例のヤツですか?『しゃーー!』ってヤツですか?やっちゃってもいいんですか?フルパワーで行きますよ?)
もう私の心臓は嬉しくてドキドキのバクバクだ。私はフルパワーを出す為に指をポキポキ鳴らし首をゴキゴキ左右に振り、そして軽くジャンプしてから両手を空に向け吠えた。
「オラに力を分けてくれ!元気だわー!」
「さあ行くわよ」
そう言って私の行動を完全無視で大きな扉の隣にある小さな普通のドアを開けて中に入っていくサーシャさん。
「‥‥‥‥‥‥‥」
私は無表情になり静かに両手を下ろすと大きな扉に向かってお辞儀した。
「また会いましょう」
そして私はテクテクと歩き開いてるドアから中に入って行った。未練タラタラで何度も後ろを振り返りながら。
その私が入った所は土がむき出しで何も無い体育館くらいの広い部屋だった。そしてその部屋の奥にはうつ伏せになっている飛竜が一頭とその周りで座り込む3人の男性とサーシャさんが居た。そして近付いてよく見ればその男性はエルフィーさんとカルビーンお爺さんだ。なら残りの1人がトムソンさんだろう。
「なんでカルビーンお爺さんとエルフィーさんがここに居るの?」
その2人は私に気がついて立ち上がり、お互いを見て笑っている。そしてカルビーンお爺さんが話してくれた。
「ワシは奏嬢ちゃんがここに来ると思って待ってたんじゃ。聖女の森に行くには飛竜が必要じゃろ?」
(うわっ、サーシャさんだけでなくカルビーンお爺さんにもバレてたんだ)
「そしてエルフィーも奏嬢ちゃんがパレードに参加していない事を知って、聖女の森に行く為に飛竜を求めてここに来るだろうとヤマをはって待ち伏せしとったんじゃ」
(うはー、エルフィーさんもですか!)
「ははは、バレてましたか‥‥‥‥」
そして2人は私をじっと見て、それから私の正面に対して左右に別れて飛竜の方を向いた。私はその二人の間を通り、辛そうに地面に伏せている飛竜の体を撫でている男性の前にやって来た。
「あなたがトムソンさん?」
その私の問い掛けに振り向いた男性はまだ若かった。その歳は20代だろうか。短い金髪で細身。とても優しそうな顔をしている。
「キミは誰だい?ここは立ち入り禁止だよ」
その問いにカルビーンお爺さんが答えた。
「この子は奏嬢ちゃんじゃ。まあワシの娘みたいなもんだ。それで聖女の森まで行きたいとここにやって来た。飛竜に乗る為にお主のところにな」
それを聞いたトムソンさんは悲しそうな顔をして話してくれた。
「カルビーンさんの娘さんならそのお願いを叶えてあげたいけど駄目なんだ。俺がダックに無理をさせたから‥‥」
そして話の途中で涙ぐみ、ダックを見つめて黙ってしまったトムソンさん。そのトムソンさんの背中を優しく撫でて話の続きをしてくれたのはサーシャさんだった。
「飛竜はね、大きな翼を持っているけどその翼は飛行制御に使うだけなの。ならどうやって飛んでるのかだけど魔力を使ってるの。このダックはね、その魔力が切れても気力だけでここまで飛んできたのよ。トムソンの為にね。それで極度の魔力枯渇状態になって生死の境を行ったり来たりしてるところだったの。今は獣医師が見てくれて少し落ち着いてるんだけど、今日の夜が山場らしいの」
とても悲しそうな表情で私に話してくれたサーシャさん。そしてその目が私に訴え掛けていた。『お願い治して』と。
私はサーシャさんを見て頷きトムソンさんに話し掛けた。
「トムソンさん、ダックは凄いね。こんなになるまで頑張って‥‥‥」
そのトムソンさんは再びダックを撫で始め、優しい目をしてそのダック見つめたままで話してくれた。
「ああ、ダックは凄いヤツなんだ。俺はダックに何度も助けられた。そして今回もな。ダックは親無しでな、赤ちゃんの頃から俺が育てたんだ。もちろん名付け親も俺だ」
「ダックっていい名前だね」
それを聞いたトムソンさんはダックを見つめながら撫でているが、その背中越しでも嬉しそうにしているのが判る。
「そうだろ?でもダックは敬称なんだ。本当の名前は少し長いんでな。その名前は『7人の聖女物語外伝』からもらったんだ」
(な、なにか嫌な予感がするのですが‥‥)
「その名前は『ギュードンツユダック』だ。どうだ?コイツにピッタリな名前だろ?」
(ぐはっ!笑いたいけど笑えないーー!)
「はは、素敵な名前ですね。早くて安くて美味しそうです」
「お前!ダックを食べる気か!!」
そう言って、ものすげー驚き顔で勢いよく振り向きダックを庇うように両手を広げ私を睨むアホなヤツ。
(誰が食うか!と言いたいところだが、もしかして飛竜って美味しいの?)
ほんの少しだけ獲物を見る目でダックを見た私は「食うのか!食うのか!」と叫ぶアホを払いのけ、ダックに優しく触りいつものセリフを少しアレンジして言ってやった。
「悪いところを全部治して。大盛りで」
するといつもより間が空いて、そしてヤケクソのように盛大に白く輝く光に包まれるダックであった。(これ大丈夫なの?)
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