第34話 白の聖女と隠密部隊

 商業の神エイビステインと白い空間で話をした私は思う。神様は私に道を誤るなと伝えたかったのではと。


 私の体は粒子状から元の体へと徐々に戻り、ギルド長室のソファーに座る状態で戻ってきた。手や足を動かしてみたがなんの違和感もなく動く。そんな私は長いため息をついてテーブルにあるお茶を飲んで心を落ち着けた。


「ふぅ~、ちょっと疲れたかな」


 それから落ち着いた私は周りを見ると唖然として固まっている3人が居た。そして最初に動きを見せたのはエルフィーさんだった。


「か、奏‥‥今のはなんだ‥‥お前が突然消えたと思ったら霧のように小さな粒か集まり再びお前が現れた。なにかワシの知らない魔法でも使ったのか?」


 そのエルフィーさんの質問に私の対面に座るダルタンさんと90度横に座るメリーナさんも興味深く私の答えを待っている。


(もうこれは隠しきれないね。この人達なら話しても大丈夫だよね?)


 そう思った私は3人に「ドアの外に出ず少しだけ待ってて」と言って立ち上がる。そしてドアの外に出た私は天井に向かって小さな声で呼び掛けた。


「ねぇ、カリーナさんの部下の人、ちょっと話があるから降りてきて。今ならあの3人は出て来ないからお願い」


 すると少し経ってから天井の一部が取り外され、そこから小柄の2人が全く音を立てず飛び降りてくる。さすが隠密部隊だ。

 その2人は男女で背格好から顔までよく似ているので双子かも知れない。年齢は私と同じくらいだろうか、女の子は背は私より頭1つ分高く、長く赤い髪をポニーテールにしている。顔は少しつり目で目付きが鋭く目鼻は小さい。そして体は細く俊敏そうで小さな女豹を想像させた。(お?そのどこも出てないスリムな体型は親近感が湧くね。もうお友達だね!)

 男の子の方は同じような体型で短めの赤い髪。顔はよく似てるが目はつり目でなく細かった。そして同じく俊敏そうなんだけど何故かチワワを想像させた。(守ってあげたくなる感じだね!)


 そして私に声を掛けてきたのは鋭い目付きの女の子。とても不機嫌そうな表情だ。


「私達はまだ若いがレベルの高い気配遮断のスキルの腕を認められ隠密部隊に入った。それが何故お前のような小娘に見破られるのだ。教えろ!いったいどうやって見破ったんだ」


(うわっ、見た目通りの性格してる。これを無視して違う話をしたら面白そうなんだけど、時間が無いから種明かししてあげよう)


 私は真面目な顔で答えてあげた。


「あのね、私は自然を鋭く感じる事が出来るの。まあ誰でも風や音で感じ取れる事なんだけど、それが異常レベルなの。

 元々持ってた能力だと思うんだけど、小さい頃から大自然の中で生きるか死ぬかの生活をしてたから研ぎ澄まされたんだろうね」


 そこで話を一区切りすると、女の子は「それがどうした」と言った顔をしている。


「それでね。カリーナさんもそうだったけど気配遮断を使うとそこだけ自然が無くなるの。人の形でポッカリとね。だから私にはすぐ判るの。あっ、気配遮断は完璧だと思うよ。この能力を使える人はそんなに居ないから」


 私がそう言うと思案顔をする女の子。そして納得したのかつり目が少しだけ和らいだ。


「そうか。確か複数ある隠密系スキルを全て極めると、自然と同化出来ると聞いたことがある。そうなればお前に見破られる事も無くなるのか。話してくれて助かった。感謝する」


(そうか良かった。怖そうな雰囲気だけど案外素直で優しい女の子かも知れないね)


「それで用件はなんだ?」


(おっと、忘れてそのまま戻るとこだった)


「カリーナさんはまだ戻ってないんだよね?」


「いや、昨日の夜遅くに戻ってきている。ただ重要案件があってこちらに顔を出すことが出来ないんだ。その用件が終わればお前に会いに行くと思うがな」


(そうか。なら丁度いいや。ダジール女王陛下とカリーナさんに報告してもらおう)


「だったらダジール女王陛下とカリーナさんに報告してもらえるかな。私の正体をカルビーンお爺さん夫婦とエルフィーさん、そして冒険者ギルドのダルダンさんとメリーナさんに教えるって。状況は私が城下町に来た時からずっと見てたんだから判るよね?」


 すると女の子は隣の男の子と顔を見合せ渋い顔をする。その男の子も苦笑いだ。


「はぁ、最初から気が付いてたのか。もう私の気配遮断に対する自信が粉々に砕け散ったぞ。

 それで状況は理解してるから説明は不要だが、ダジール女王陛下とカリーナ隊長に報告したら驚かれるぞ。カルビーン夫婦の病気を完治し、名匠エルフィーのナイフを金貨1枚で譲り受け、ドワーフを唸らせるウイスキーという酒を聖女の力で造り、挙げ句の果てその名匠エルフィーを酒造職人に転職させた事をな。それもまだ城下町に来てたった2日だぞ?」


 そう言って渋い顔から呆れ顔に変える女の子。隣の男の子も「ウンウン」と頷いている。


「ははは、私もちょっと疲れました。それじゃあ報告よろしくお願いします」


 私はそう言って戻ろうとドアノブに手を掛けた。すると女の子が待てと言う。


「聞き忘れていたことがあった。さっきお前は突然消え、そして現れた。あれはいったいなんだ?なにが目的だったんだ?」


 私はドアノブに手を掛けたまま振り返り、ニヤリと微笑み言ってやった。


「あれはね。商業の神エイビステイン様に呼ばれてお話ししてきたの。とっても面白かったよ。あと私も言い忘れてたことがあったよ。監視はいいけど節度を守ってね」


 私はそう言って唖然とする2人を背にギルド長室へと戻った。

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