いいえ。チートなのは旦那様です

仲村 嘉高

第1話:善良過ぎて不幸に




「お前の家は、うちの伯爵家との共同事業があるから生活出来ているんだからな」


「お前の家は、うちの伯爵家に見捨てられたら没落するしか無いんだからな」


「お前が逆らったら、婚約破棄してやるからな!そしたらうちからの援助は無くなるからな!」


「貧乏伯爵家のくせに、生意気に嫉妬なんかするな!俺が誰と出掛けようと、お前には関係無い!」


「俺と婚約出来ているだけでどれだけ幸運だと思っている!役立たずの穀潰し貴族のクセに」



 これが、タイテーニアが婚約してからずっと、婚約者であるニーズに言われていた言葉である。

 同じ伯爵家という立場ではあるが、タイテーニアの実家であるシャイクス家は貧乏だった。

 領民には慕われている善良な領主であるが、貴族にしては正直過ぎた。



 冷夏による飢饉が領地を襲った時、タイテーニアの両親は、持っていた備蓄を全て領民に分け与えた。

 翌年納める分の税金となるはずだった糧まで、領民の命には代えられないと全て放出してしまったのだ。


 国には素直に報告し、国への借金という形にして毎年少しずつ返済する事になった。

 事が事だけに、分割納付だが分割手数料や延滞金は掛からない事になったのが、せめてもの救いだろうか。

 そしてここから貧乏伯爵家としての生活が始まった。



 国からは、飢饉による死者が一人も出なかった領地として、褒められ、税金の分割も許された。

 そしてその後、隣の領主であるボトン家と共同で事業を起こす事が決まり、くだんの婚約者との政略結婚も決まった。



「政略結婚なんてしなくても、共同事業は成り立つのになぁ」

 タイテーニアの父であるタイターニが今日も溜め息をこぼす。

 実は備蓄の放出は、隣のボトン家領地へも行われた。

 それはボトン家がシャイクス家へ借金をする形になったのだが、婚約を結ぶ事により『催促無しの有る時払い、利息無し』とされてしまった。


「借金を返済するには、領民へ長期にわたり重税を掛けなければならない」

「一人も死者が出なかったシャイクス領と違い、自分の所は領民が減ったのだから大変だ」

 一瞬納得しそうな話だが、実はシャイクス家へ全負担を押し付けている。

 本当に返済する気があるのなら、シャイクス家と同じように国に借金すれば良いだけなのだから。


 しかし超が付くほど善良なシャイクス家は、ボトン家が返済する気が無いなどと一切疑っていなかった。

 共同事業と借金、両方を円滑にする為には親戚関係になった方が良いと、ボトン家に押し切られたシャイクス家。


 実はその共同事業も、ボトン家が業者と癒着し、借金はシャイクス家へ、利益はボトン家へと流れているなど知りもしなかった。




________________

善良というか、お馬鹿さんな気もしますが、それが無いとお話が始まらないので、全力スルーの方向でw

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る