第359話伊東合宿④オルゴール館でピアノ試奏 大喝采を浴びる。

食後は、別荘の周囲を散歩。

伊豆高原の様々な美術館を見る。

「ステンドグラス」「ろう人形」「アンティークジュエリー」「テディベア」などなど、見て回り、少々疲れ気味、結局女子たち期待のカフェ(もちろんケーキ付き)で一休み。


祐はともかく、女子たちは、華やか。

真由美

「観光しているって感じ、いいね、伊東って」

純子

「明日はシャボテン公園に行こうよ、リス猿がメチャ可愛い」

いつもは難しい顏の春奈も、今日は愛らしい。

「そうね、噂で聞いた、見ようよ」

朱里は、いつの間にか祐の隣席をゲット。

(これも一歩一歩の家康公作戦のようだ)

「ねえ、愛奈ちゃんとは、どこで?」(やはり国民的アイドルの愛奈の到着を気にしている)


祐は、「ハッ!」と思い出した感じ。

(つまり、すっかり忘れていた)

少し間があって、「オルゴール館にしようかな、わかりやすい」とポツリ。

朱里は、そのまま愛奈にメッセージを送り、「即了解!」のスタンプをゲットする。


カフェを出た祐たち一行と、愛奈の乗った車(マネージャー吉田雅子が運転)が、オルゴール館に着くのは、ほぼ同時だった。

愛奈は、さすがに観光地なので、大きなニット帽、濃茶の大きなサングラス、濃紺の大きなマスク、黒のトレーナーとパンツ、スニーカーといった地味な感じ。(アイドルと気づかれたくない)

(でも、ずっと祐に会いたかったので、ピタリと張り付く)


声も小さ目。

「うれしい、祐ちゃん」

祐は、ボケた返し。

「連休なのに、仕事がないの?」

愛奈は祐の足を軽く蹴った。

「お役所の対談の仕事、もう終わった」

「明後日まで、祐ちゃんとみんなと一緒」


女子たちも、心得たもので、見て見ぬふり。

(下手に刺激して、愛奈を観光客に見せたくない、大騒ぎになるから)


実際、オルゴール館は混んでいた。

老若男女問わず、で歩くのも難しいくらい。

(ただ、愛奈は気づかれないままだった)


結果として、オルゴール館での反応は、祐に対してだけだった。

5~6人グループの女子高生たちが、ヒソヒソと祐を見た。


「ねえ、あの可愛い男の子、ネットで見たことある」

「うん、お人形みたい、待ち受けにしたい」

「それもそうだけどさ、ピアノとフルートの動画で見たよ」

「あーーー!あの子?金髪美女のジュリアとも・・・いい感じでね、うらやましい」

「写真希望していいかな?」

「でも、周りに女子多いよ、きれいな子ばかり」

「悔しい、私負けたかも・・・あの胸に」

「いや・・・あのミニスカの子・・・脚、きれい」

「やはり可愛い男子の周りには美女が多いのかな」

「名前思い出した・・・祐君?」

「そうそう、渋いライブバーでね」

「ここにも、ピアノ有ったよね」

「お願いしたら弾いてくれるのかな」

・・・・・・


結果として、祐はオルゴール館でピアノを弾くことになった。

(女子高生たちの元気なパワーに負けた、オルゴール館へのピアノ試奏の申込も女子高生だった)

※尚、オルゴール館のピアノ(スタインウェイ)は、大統領のピアノと呼ばれている。トルーマン大統領が弾き、ケネディ大統領がこのピアノの伴奏で歌ったという記録がある。


祐が選んだ曲は、ショパンのバラード第一番。

重々しい前奏から、メランコリックなメロディと続き、(あっという間に聴衆が寄って来た、オルゴール館入場者の全員)、パワフルな部分では、心に響くのか、全員が胸を抑えた。

また美しいメロディがスッと流れ、聴衆は夢を見るような顔。

曲調がグンと高まると、声一つ、息一つできないほどに、聴衆の心を引きずり込む。

そしてバラード第一番は、重々しくクライマックスを迎え、終わった。


祐が一息吐いて立ち上がると、ものすごい拍手と歓声。

「アンコール」の声もかかったけれど、事前からの予約がない限り、オルゴール館でのピアノ試奏は一曲限定。

(祐は、あっさりと歩き出した)

(その祐を女子高生グループがあっという間に囲み、ツーショットやら何やらで、大騒ぎになっている)

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