第347話老舗甘味屋にて 「事件」の新しい動き

祐はともかく、女子たちは、お目当ての老舗甘味屋に入って大騒ぎになった。


純子は店内を見回して感激気味。

「安政元年の創業・・・私も菓子屋の娘だけど、頭が下がります」

真由美

「170年も続く店も、いいね」

「私たちも歴史の中の一人」

朱里

「落ち着いた感じでいいな、通いたいかも」

春奈は祐の顏を見た。

「この店、永井荷風の小説で出ていたような」


祐は、その丸い目をクルクルと回して(つまり考えて)答えた。

「踊り子かな、この店のお汁粉が人気で満員で入れなかったとか」

純子は興味がある様子。

「永井荷風か・・・読んでみるかな」

真由美

「池波正太郎さんも、浅草書いていたような」

朱里

「そうなると、文学散歩みたいね、いい感じ」

春奈

「昔から芸人とか、文化人が集まった、そういう街だよ」


そんな話の流れの中、注文は様々。

純子「あわぜんざい」、真由美「クリームあんみつ」、朱里「抹茶あんみつ」、春奈「田舎しるこ」と続き、祐は「豆かん」。

(ただ、女子たちは、いろいろ交換して食べている)


「さすがに、しっかりとした味」

「本物の甘味屋さん」

「日本人の心を感じる」

「いいなあ、こういう伝統も」


概ね、女子たちが、バクバクと食べているけれど、祐は懸命に飲み込む感じ。

「まだ、病院食の影響が残っているのかな」

「胃が小さくなったかも」


それでも、(祐が最後だったけれど)全員が食べ終え、仲見世を歩く。

(女子たちの食欲はおさまらず、揚げ饅頭、煎餅などを食す、祐は胃痛らしく無理)


浅草寺、浅草神社の参詣を済ませ、演芸ホールまで、歩いていると、女子たちは、屋台のもつ煮が美味しく見えるらしい。


「ビールともつ煮、焼き鳥も一度・・・」

「オヤジ趣味?でも、女子もいるよ」

「成人すればいいのかな」

「私はもう成人、飲もうかな」

「祐君が一番遅いよね、3月31日誕生日だから」

「そうか・・・一番お子ちゃまか・・・」

「でも、時々生意気言うよ」

「愛奈ちゃんには強いよね」

「あのレイラも祐君に完敗」


・・・


そんな女子トークが続く中、祐は寺尾弁護士からの連絡メッセージを受けていた。

内容としては、

・祐を襲った健治の両親、野球部顧問(尚、謝罪に反対した監督は解雇されている)、高校長が謝罪の意思を示したこと。

・連休明けに、謝罪の面会をしたいと申し出たこと。

・急に態度が変わったのは、都教育委員会、都野球連盟に加えて、文科省、高野連からの強い非難があったこと。

・SNSの非難大炎上、高校前でのマスコミ連日批判報道に抗せなかったこと。


祐は、通話で、寺尾弁護士に確認。

「親父を呼んだほうがいいのかな」

寺尾弁護士

「既に連絡済み」

「それから、祐君は被害者」

「強い言葉で非難して欲しい」

「そうしないと、加害者の甘い認識が治らない」

祐は「わかりました」と通話を終えた。


女子たちは、祐の表情を、じっと見ている。


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