第308話フルート修理完了 即席コンサート②

私、中村雅代としては「計画通り」の行動でした。

祐君の楽器修理の件は、銀座の楽器店(プロデビュー時からの長いお付き合い)から、聞いておりましたので、「祐君が本日お見えになるとのことです」の一報で、実は「駆けつけた」次第です。

「何故、そこまで?」と思われる読者もおられると思います。

まあ・・・いうならば、祐君には、いきなり押し掛けが、いいかなあと。(下手に時間を指定すると、あれやこれやと理由を付けて、かわされる可能性もありましたので)

それと、祐君とデュオを、ずっとしていなかったこと(そのチャンスもなかった)で、どうしても、したくなってしまったのです。(こんな私も、時には衝動的になります)


・・・ジュリアとのデュオが、うらやましかったのも、事実。

村越君、ジャン、ジュリアとのカルテットも、ほう・・・と言うくらい面白かった。

(それでも練習不足を指摘しました・・・最後にヘタリ気味で、体力も落ちていたのかも)


さてさて、そんなことは言ってはいられません。

楽しみにしていた祐君とのデュオ本番なのですから。

それと、「クラシック界の大御所」なんてくだらないニックネームは、今回はありません。

ただ、音楽を楽しむ一人のピアニストです。


その一曲目は、バッハ=グノーのアヴェ・マリアです。(バッハの平均律にグノーがアヴェ・マリアのメロディをかぶせたもの)

最初は、普通のバッハ・・・途中から、テンポ、リズムを変化、ジャズを仕掛けてみました。(祐君のジャズも好きだから)

そうしたら、祐君・・・私の顏も何も見ません。

そのまま、なめらかジャズに変えて、合わせて来たのです。(しかも、途中からニュアンスを暗めに、仕掛け返して来たのです)

もう、こうなったら、私も面白くてなりません。

ゆっくりゆっくり明るめなバッハにと、また、仕掛けました。

すると、祐君は、音量をたっぷり目に、美しくホールに響かせます。(今度は音色勝負のようです・・・そうなると、ピアノは決まった音の範囲なので・・・負けました)


二曲目は、普通にビゼーの「アルルの女」。(そのままで美しいので)

祐君は、思いっきりブレス、美しく、そしてはかなげに、有名なメロディを響かせました。(私も、聞き惚れた一人です、上手いの一言でしたので)

(聴衆は・・・この時点で300人を越えていました)


三曲目は、ボサノバの名曲、アントニオ・カルロス・ジョビンの「波」。

「さわやか」「軽やか」を意識しました。

祐君は、とにかく、お洒落に吹きます。(はぁ・・・とうっとりするくらい)

ピアノソロも、乗りました!それがうれしい!クラシックだけではない、中村雅代を思いっきり出しました。(これも、祐君のお洒落なフルートのおかげです)


四曲目は、祐君から私にリクエスト。

ジャズの名曲「ルート66」でした。

うれしかったので、テンポもリズムも明るめに。

祐君は、ニコニコして、吹きはじめました。

聴衆も楽しいのか、手拍子も!

途中から、仕方ないので、ロックンロールのリズムに変えました。(もう!楽しいって・・・若い娘みたいです、私)

曲が終わると、もう、当然のように大喝采。(祐君は、少し疲れたのか、息をゼイゼイしていました)


その後、アンコールに応じました。

シャンソン「愛の賛歌」です。

祐君は、懸命に、ドラマチックにフルートを吹きます。(パリの情景が浮かんで来る感じ)

私は、冷静に、祐君を支えました。(時には、もっと頑張ってとニュアンスを送ると、祐君は正確に受けてくれました)


アンコールを終え、大喝采と拍手を受け、ミニコンサートは終了しました。

祐君は、椅子にへたり込む感じ。

その祐君に、純子さんと朱里さんが、付き添っています。(妬けます、本当に)


「ありがとう、祐君、面白かった」

祐君は、苦笑。

「いきなりだったので、焦りました」


「フルートも、なかなかいいよ」

祐君は首を横に振った。

「でも、まだ、ブレスが戻っていなくて」

「ピアノとギターは、その必要がないけれど」

「身体鍛えないと、これ以上は無理です」


私は、そんな祐君がいじらしく、可愛い。

ギュッと手を握って、胸に抱え込んでしまいました。

(実は、一番愛しい弟子なのです)

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