第281話楽器店を出て、ほっと一息・・・だけど?

祐君と宮崎由紀子さん(真面目風な女子高生、音大志望とか)の、モーツァルトのヴァイオリンソナタが終わった。(私、純子も大感動!)

大きな拍手の中、ヴァイオリン女子の宮崎由紀子が顔を赤らめて祐に握手を求めた。

祐君は、軽く会釈して握手するだけ。(そのギャップが取り囲んだ聴取を笑わせる)

アンコールの声も多くかかるけれど、祐君には、全くその気はない様子。

取り囲んだ聴衆の多さに驚きながらも、鞄を手に持って歩き出す。

管楽器フロア責任者の里田さんが気をつかって、道を開けてくれたので、ようやく下りのエレベーターに乗ることができた。


里田さん

「いろいろ、ありがとう、気をつかってくれて」

祐君

「いえ・・・突然で、少し焦りました」

「それよりフルートをお願いします」

里田さん(少し顔を曇らせた)

「彼女については、厳しく指導します、本当に申し訳ない」


そんな話の後、祐君と私、田中朱里は楽器店を出た。


私、純子

「祐君、お疲れ様」

祐君(やわらかな顔)

「とんでもない展開で・・・」

「どこかで、甘い物でも」

田中朱里は、花のような笑顔。(さすがモデル出身!)

「銀座で甘い物・・・これは幸せ」


祐君が案内してくれたのは、四丁目交差点近くのチョコレートショップ。(祐君は、銀座にも詳しいようだ)

祐君は、普通にチョコレートドリンク(ココア・・・濃い目かな)を飲み、私はストロベリーチョコドリンク、田中朱里はシナモン風味のチョコレートドリンク。


一口飲んで祐君

「はぁ・・・メチャ疲れた」とポツリ。(ほんま、そのまま、ゴロンさせたい)

田中朱里は、首を傾げた。

「女子店員が冷たい感じで、女子高生が騒いだら、コロッと態度が変わって」

祐君は、ため息をつく。

「確かに、廉価品なので、相手にしたくない、そういう気持ちもわかるけどね」

私も、彼女の冷たい態度は嫌だった。

「里田さんがいなかったら、他の店だよね」

祐君

「うん、顔を立てただけ」

「ピアノは余計だった」

田中朱里は、祐君の顏を見つめた。

「ヴァイオリンの女の子は、どうだったの?」(やはり心配?)(私は大丈夫と見ていた)


祐君は表情を変えない。

「良くも悪くも、普通の子」

「キチンと弾いていたね」(音楽でしか、考えていない感じ・・・それでよし!)

「でも、僕の今は、音楽は余芸、本気には突き詰められない」

「確かに、古文系が重いよね、ほんま」

田中朱里は、心配そうな顔。(ようやく祐君の苦しさを理解し始めた?)

「あまり期待されても、重荷かな」

祐君は、キッパリ顏。

「と言うより、古今の構想を詰めないとね」

「そっちが先決」


そんな話をしていると、祐君のスマホが鳴った。

風岡春奈さんだった。

電話を終えた祐君が。頭を下げた。

「アパートに戻る、せっかくの銀座だけど」

「打ち合わせしたいみたい」

田中朱里が、祐君の顏を見た。

「あの・・・私も・・いい?」

「何か、祐君のお役に立ちたい」

祐君は、やさしい顔。

「いいかな、モデルの経験もある」

「お願いします」

田中朱里の顏は、また輝いている。(・・・美しさも増している・・・焦る)



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