第263話奥様の健康不安を感じるけれど

秋山先生のお屋敷のお昼は、恒例の散らし寿司。

(奥様と純子さん、私、真由美と編集者の伊藤五月さんも加わった共同作業だった)

奥様は、本当にうれしそうだった。

「若くて美しいお嬢様方に手伝ってもらうと、お寿司も華やかになります」


ただ、奥様のお身体は、少々お疲れ気味のようだ。

この前に見た時より、お肌のツヤが失せた感じ。(懸命に動かれてはいるけれど)


だから配膳とか、神経を使う作業は、純子さんと私、伊藤五月さんで分担(祐君も気がついたようで、途中から手伝ってくれた)


散らし寿司を食べている間は、季節の話題(無難な話題)に終始。

祐君が新芽の季節も好き、と言ったので全員が賛成、ますます、なごやかになった。

ただ、井の頭公園までの散歩はできなかった。

あまりにも、奥様の疲れ顔が辛そうだったから。


伊藤五月さんだけを残して、私たちは、昼食後に秋山先生のお宅を辞した。(少しでも、奥様を休ませたかった)


別れ際に,奥様は祐君の手をギュッと握った。

祐君は、笑顔で握り返す。

「また来ます、次もお土産持って来ます」

奥様の顏がパッと明るくなった。

「あら、何かしら?」

祐君は、「えへへ、秘密!」と笑う。

奥様は悔しそうな、それでいて、うれしそうな顔。


お屋敷を出て、少し歩いた時に、祐君。

「あまり、涙を見たくなかったから」

純子さん

「うん、奥様に、次への期待も持たせて・・・いいね」

私は本音。

「奥様は、支えたくなる人」

「一緒にいて、胸がキュンキュンするよ」


祐君は、顔を曇らせた。

「あの年齢の夫婦が二人だけも心配」

「去年までは、日村さんという女性の内弟子がいた」

「先生が決める話ではあるけれど・・・」

純子さん

「難しいよね、でも何とかできないかな」

「うーん・・・そういうことに、私たちは子供過ぎる」


祐君が話題を変えた。

「僕たちはできることをする」

「神田事務所に行くよ」

「古今の写真を探す」


そのキッパリとした言い方に、純子さんと私は、背筋を伸ばしている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る