第230話祐と純子のラブラブ歩き マスターと中村雅代

祐君は「バッハのパルティータ」を弾きおえて、大きな拍手を受けて、元の席に戻り師匠中村雅代に一礼、私、純子には、目で合図、そのまま一緒にライブバーを出た。


私、純子は少し気になった。

「もう少し話しないでいいの?」(あまりにも、あっけなかったから)

でも、祐君の返事はシンプル。

「古今の点検もしたいし、ピアノばかりに構っていられない」(ふむ、なかなかクールだ)

私は、また胸を押し付け気味に腕を組む。

「すごかった、バッハ・・・ほんまに」(レベルが違う人、でも離さん)

祐君の顔が赤い、

「あの・・・純子さん・・・恥ずかしい」(ようやく、言えるように?初心な子や)

私は、祐君が可愛い。

「恥ずかしくないよ、何も、いい感じ」(また、本音や・・・触感そのもの)

祐君は素直だった。

「確かに・・・ふっくらとして・・・うん・・・」(そこでもたつかない!でも、それも可愛い)

気になっていることを聞いてみた。

「中村先生とは、何の話?」

祐君

「いきなり来て、下手と言うし」(何ですと?・・・厳し過ぎ、プロやないのに)

「7月のリサイタルで娘さんと連弾とか」(娘?またライバル?連弾よりそっちが気になる)

「八幡山にスタジオがあって、そこで練習しなさいとか」(また重荷やなあ・・・)

私は、祐君に意思確認。

「祐君は、どうするの?」

祐君は、悩んでいない顔。(弱そうで、実は強いのが祐君)

「気分転換で寄るかなと、帰り道だから、千歳烏山の手前の駅」

私は、ここでも祐君を野放しにしたくない。

「私も行ってもいい?」

祐君は、笑顔。

「うん、助かります」

一言加わった。

「途中に、美味しいケーキ屋さんがあります」


私は、うれしいような恥ずかしいような。

だって・・・上京してから、サイズアップが・・・(これは祐君が悪い!としておく)




祐君があっさり帰った後、私、中村雅代はカウンター席、マスターの前に座った。


「言い過ぎたかな」(久しぶりに逢って、つい・・・も否定できない)


マスターは、いつもの、のん気な顔。

「大丈夫だよ、あの子は」

「かなりな問題をクリアして来ている」

「ただ、心配なのは、食の細さ、神経も細かい感じ、もう少し大らかでもいいな」


私も、それは、子供の頃から知っている。

「彰子さんが、細かいし、うるさ過ぎるの」

「何から何まで、叱るから」

「・・・まあ・・・今日は私も・・・つい・・・」


マスターはプッと吹く。

「確かにね、彰子さんは、そうだね」

「でも、それで祐君の古文とか、文章力を徹底的に磨いた」

「彰子さんは、祐君の実力を認めないと思うけど」

「何しろ、秋山康さんと、平井恵子さんが、ベタ褒めらしい」

「後継者にしたいとか、そんな感じ」


でも、私も祐君を手離したくない。

「古文に縛り付けたくないの、どんなに才能があっても」

「ピアノも真面目にやれば、さっきみたいに、すごい演奏ができる」


マスターは、ローズヒップ茶を私の前に置いた。

「真面目な子で、彰子さんの影響で、控え目」

「でも、あの華やかな哲夫さんの教育も受けている」

「心配はいらないよ、どっちもこなすよ」

「大らかに見守ろうよ」


私の心も落ち着いた。

「そうだね、そうする」(いつも、このマスターの言葉で安心する)


そう思ったら、ピアノを弾きたくなった。(祐君のバッハで血が騒いでいた)

マスターに目配せ、そのままピアノを弾き出した。(ベイシーをピアノで弾いた)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る