第133話祐を待つ源氏物語の大家秋山

源氏学者秋山にとって、祐は久々に才能を認めた、できれば源氏物語研究の将来を担って欲しい存在、だから祐が自分の家に来るとなれば、どうしても自分が出迎えたかった。


「門口で恋人を待つ」

自分でも、笑ってしまった。

これでは、万葉集の「恋歌」ではないかと。


「若菜上」を読んで来て欲しい、と言ったのは、自分の次の講演のテーマであること、それに、若い祐の発想を参考にしたい、そんな思いがあったから。


「でも、それも、どうでもよくなった」

「それ以前に、祐君たち、若い人の恋愛観、源氏観を聞きたい」

「どうしても、我々の恋愛観は。源氏物語観は、古めかしいところがある」


昨晩の祐との電話の前に、愛弟子でもある、祐の母彰子と話をしている。

「彰子さん、いや、今は気鋭の彰子先生」

「祐君と若菜上の話をするのが、本当に楽しみでね」


母彰子は、恐縮していた。

「申し訳ありません、祐のような、未熟な子にお目をかけていただいて」

「お役に立てるかどうか」

「ご教授をお願いいたします」


秋山

「祐君のブログは、全て、読ませていただいたよ」

「彰子先生とも、僕とも違う、源氏物語のとらえ方をしている」

「彰子先生も僕も、昔ながらの伝統から離れられないけれど」

「祐君は、その伝統を踏まえて、もう一つ、現代的な感覚で、ブログを書いているよ」

「実に新鮮で、しかも深みがある、だから、読み続けてしまう」


母彰子は、また困った。

「秋山先生、実は、私、祐のブログは読んだことがなくて」

「あの子も、何もそんなことはいわないし、聞いても来ないから」


秋山は、少し笑う。

「まあ、男の子は、そんなものかな」

「教えられることは、教えさせてもらうよ」

「とにかく、楽しみで仕方がないよ」


秋山は、そんな電話を思い出しながら、祐を待った。

「千歳烏山と久我山の距離、と言っても、慣れない東京の道」

「迷うかな、少し心配だ」

「女性が二人、とは聞いた」

「一人が、奈良元興寺近くの和菓子屋・・・行ったことがあるかな」

「もう一人が菊池さん、大宰府・・・はて・・・九州国立博物館にそんな名前の人が・・・偶然かな」


秋山の目に、祐が見えて来た。

「遠目で見て、光を帯びている」

「はやく、もっと近くに」


秋山も、祐に向かって歩き出した。

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