第84話和歌研究家平井恵子も祐に興味を持つ。

和歌研究家平井恵子は、源氏物語の大家秋山康から、祐の話を聞いて、興味を持った。

さっそく、鞄に入っていたタブレットで、祐のブログを読んでみた。


「ペンネームが、森田祐?」

「本名で・・・普通はないけれど、素直な感じ」

「ふぅーん・・・源氏とか万葉、古今、新古今もあるわね」

「今時の子で、珍しいなあ」

「お母様の彰子先生の影響かな」


平井恵子の目は、数あるブログの中の「式子内親王:片思いの道」を選んだ。

「これを知っているとは・・・新古今にはないのに」

「前小斎院御百首、かなりこの歌人が好きでなければ、知らない」


その、祐のブログは


「(式子内親王 前小斎院御百首より)


尋ぬべき 道こそなけれ 人しれず 心は慣れて 行きかへれども


本当は あの人のところへ行く道などはない

この 私の想いだけが 何度も あの人のところへ

行っては 帰ってくるだけ

でも そのことは あの人には 知られてはいない


片思いで、その想いは全く、相手に知られていないのです。

その辛い想いだけが、あの人のところへ、行く道を知っているけれど

想いでさえ、相手にされず、行って帰って来るだけなのです。

ただ、私の心は、そんな寂しさに慣れてしまったようです。


片思いの歌として、本当に心に響く歌だと思う。

まだ、お若い時期に詠まれたのだろうか。

せつなさの中に、ふんわりとした情趣を感じる。」


ここまで読んで、平井恵子は、祐と話をしたくなった。

「いい感じの文かな」

「まだまだ未熟だけど、大先生たちが書く・・・である、とか、であるぞよ、みたいな幻滅するような訳ではない」

「式子内親王という人への敬意も感じるな」

「大先生たちは、あまり皇室には敬意を払わない、語釈とか文法は好きだけど」

「秋山先生が、教えたくなるのが、よくわかる」

「細やかな感性がある」


ただ、母の彰子が気になった。

「古文学会で、名刺交換、少し挨拶しただけか・・・」

「それでも、仁義を果たそう」


平井恵子は、そのまま手帳をたぐり、祐の母にスマホで電話をかけている。

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