第42話母は祐君を知っていた。

祐君が自分の部屋に戻って、本当にすぐに、実家の母から電話がかかって来た。

「純子、御菓子送ったよ」


「ありがとう」(私は、少しホッとするような感じ)


「で・・・隣の男の子とはどうなの?」(我が母ながら、実に核心を突いた質問だ)


「えっと・・・うん、いい感じ」(とても一晩同じベッド・・・とまでは言えない)

それでも聞いてみた。

「隣の祐君ね、お店で買ったことがあるんだって、子供の頃とか、一人で入ったことも」



「へえ・・・一人で若い男の子がねえ・・・」

「あまり観光客が来るお店でもないけれど」


(母は少し考える雰囲気)


「ねえ、純子・・・静岡の森田祐君?」(母の声がはっきりとした)


「うん、何かわかるの?」


「もしかして、お母さんが歴史の研究者かな?万葉集とか平城京を研究している人」

(母の声が明るくなった)


「うん、祐君、そんなこと言っていたよ」(私も、うれしくなって来た)


「ああ・・・そうか・・・森田彰子さん・・・うちのごひいき、長年だよ」

「奈良に研究に来ると、必ず寄ってくれて」

「何度もお菓子を送ったことある」


(母は、またそこで、うーん・・・と考えた、まどろっこしい!)


「あ!あの子かな、色白で!可愛い男の子、お人形さんみたいな」

「アイドル系の・・・きちんとした子」

「いつも、お饅頭を買う・・・」

「へえ・・・それはそれは・・・」

「息子にしたいくらい・・・いい子だよ」

母の声は、かなり弾んだ。


「うん!」

「その子が森田祐君」


「純子は、去年一浪して」(・・・突然、母は耳障りが悪いことを言う)

「去年の夏は帰って来なかったでしょ?」(勉強一筋、奈良は盆地だから暑いの!)


「うん」


「その祐君が一人で来たのは、去年の夏なの」(母の声が神妙になった)


「う・・・うん」(私は、残念で意外だった)


母は続けた。

「そしたら祐君、酷く痩せていて・・・心配なくらい」

「買って帰るのも、お饅頭一つだけ、すみません、これだけって」

「私も心配になって」

「大丈夫?って聞いたの」


「うん・・・」

母の声は、低くなった。

これは、話が長くなる前兆である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る