第70話 ドッキリ

『寝耳に水』


 思いがけないことが起こったり、思いもよらない知らせを受けたときに使う言葉。寝ている南山之寿の耳に、ヨダレを投下する姫。まさに、寝耳に水。飛び起きた南山之寿。


『驚き 桃の木 山椒の木』


 たいそう驚いたという意味。この言葉を使う人を見たら、南山之寿もたいそう驚く。死語を調べていて時に見つけた言葉。


『いや、「驚き 桃の木 山椒の木」を使うやつがいるなんて、もう「驚き 桃の木 山椒の木」だ!』


 何を言っているのか、理解不能な死語の世界。

 

 今日はドッキリ対決。驚かすもよし、驚くもよし。楽しむのが試合。ただし、驚かす時に油断は禁物。


 隠れて脅かすのが好きな南山之寿。子供心を忘れない。若と姫がでかけた日は、家の中に隠れて待機。もちろん、妻からの帰宅連絡を受けてから。


 カーテンに身を隠し、驚かす南山之寿。玄関から徐々に衣服を脱ぎ並べ、風呂場に誘導。浴槽の中に潜み、驚かす南山之寿。洗面所の壁に手足を突っ張り、天井から驚かす『スパイダーナン』。あの手この手で驚かす。


 最初のうちは、本当に驚く若と姫。直立不動でビクリと飛び跳ねる勢い。最近は、探すのが楽しみに。真剣さが足りないと怒られる。真剣に隠れるのも命懸け。


 妻を脅かそうと画策。寝る前に水を飲むタイミングを見計らう南山之寿。リビングを全消灯し、キッチンの照明スイッチの下にしゃがんで待機。若と姫の寝姿を確認し、キッチンに戻ってくる妻。妻がスイッチを押そうとすると、そこにあるのは南山之寿の頭。


 人は本当に驚くと悲鳴が出ない。出るのは拳。

 

『ゴォツツン!!!』


 頭を思い切り殴られる南山之寿。怒るに怒れない。妻は憤慨。痛みに耐え、謝罪する南山之寿。『ドッキリでした〜』なんて、誰か救いに来てくれないかと期待するが、無駄な話。


 ドッキリがいつも成功するとは限らない。

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