俺は右の道を進んだ。


右から左から、半透明のシーツのようなものが襲ってくる。うん、腹が減ってきて幻影が見えるんだな。気にしちゃ負けだ。

シーツに触れられるとゾクっとする。おいおい、こいつは本物じゃねえのか。空腹を我慢して走り出す。


さらにシーツから逃げていると、ぽっかりと木々が開けた場所に出た。


円形の広場の真ん中に、泉。泉!水!


へとへとになった体に気合を入れなおして泉にたどり着き、膝をついて両手で水をすくって一口。


「!!!」


生き返るっ!空を仰ぎ見て、その勢いのまま仰向けに倒れてしまった。


右手に何か当たったのでふと見ると棒?のようなものが落ちている。森の中なので棒や枝なんてポロポロ落ちているが、なんだろう、こいつは妙にテカテカしている。


そんなことより水だ!思う存分飲んでから、改めて棒を拾ってしげしげと見てみる。

なんだか手にしっくりくる。軽いわりに堅そうだ。


泉の脇にある石に腰かけて考えた。

魔女か……。もういいか。これだけさまよっても会えないんだ。魔女より明日の飯、今日の寝床だ。

棒を握りしめて泉からの流れに沿って歩き出す。


何日ぶりだろう、やっと寒村に戻ってこれた。村の入り口が見えた瞬間、安心感から泣きそうになった。


寒村で身支度を整え、俺は拠点にしている街に戻った。

因みに泉で拾った棒っ切れだが、ギルドにいい値段で引き取ってもらえた。何でも魔法を増強する効果があるそうだ。

ひょっとして魔女の持ち物だったり……。


だけどもう一度、同じような棒を探しにあの森に行くことはないだろう。


― 終 ―


A.寒村に戻る

https://kakuyomu.jp/works/16817139556996976710/episodes/16817139556997093263

B.マイページに戻る

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