第4話 私は悪い子。
病院沙汰になったのは、今回がが初めてだったが、以前から、体育水泳を休みたいと言ったり、運動着も、絶対半袖半パンは着なかった。
顔にあざを作ってきた事も珍しくもなかった。
しかし、『転んだものだ』としか、朱羽子は言わなかった。
そんな事があったから、児童相談所が自宅に何度か来たことがあった。
それでも、橙史のDVは見逃されてしまった。
そう、あの日まで―――…。
*
「朱羽子!寝る前に酒買って来い!!」
泥酔して、一段と荒れた口調で、橙史は朱羽子に命令をした。
「私…子供だから…お酒…買えないです」
「あぁ!?俺に従えないってことか!」
橙史が立ち上がり、少しずつ朱羽子近くに迫ってきた。
キッチンまでじりじりと間を詰め、蹴る事の出来る距離に追いやった。
そして、まだまだと言うにやけた顔で、朱羽子を殴ろうとした瞬間………、
カタン…。
何かが朱羽子のすぐ隣で倒れた。
それは、孤独と体と心に負った傷が呼んだに違いない。
朱羽子の悲しみと、怒りと、苦しみは、とうに限界を超えていた。
だから、こんな事が起こってしまったんだ。
朱羽子は落ちて来た包丁を、恐る恐るつかむと、
「もう…いや…」
「あぁ!?何言ってんだ!!」
朱羽子は、震えながら口を真一文字に結び、立ち上がった。
「私…悪い子でいい…」
涙を瞳に涙をたっくさん溜めて、ゆっくり立ち上がった。
そして…目を瞑り勢いを握りしめ、
「なんだ。俺を殺そうとでも思ってるのか?バカが。お前は一生逃げられないんだよ!」
「なら…逃げ…られないなら…」
溜め込んでいた、涙をポロポロ零しながら、恐怖に負けそうになりながら、こんな何も悪いことなど、した事の無い少女が――…。
「逃げられないなら…してやる…」
「あんだって!?」
「逃げられないなら、殺してやる!!」
鈍く、肋骨の隙間を抜け、包丁の刃先が内臓を通り、そこを通過して、包丁の先が、何とも言えない音と感触で心臓に着地したのが解った。
「う…朱羽子…お前…」
橙史は少しだけ息を吐くと、目を見開いたまま、床に崩れ落ちた。
口からは血が溢れていた。
「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」
朱羽子は息を荒げ、握りしめた包丁を抜き、手が生暖かい血にまみれた。
「お…おとう…お父さん…?」
カシャンッ!カランカランッ!ペチャ…。
包丁が床に落ちて、橙史の体から流れ出た、血の海にダイヴした。
「あ…あ…」
声にならない声で、必死で自分のしたことを、把握しようとする朱羽子。
「おと…とさ…お父さん…?あ…あぁ――――――――――――――!!!!」
震えた声は、あっという間に悲鳴に変わった。
その後の事は、朱羽子は、よく覚えていなかった。
泣いていたのか、ボーっとしていたのか、何も考えていなかったのか、もう何も考える余裕などなかったのか…もう…それすら…。
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