第11話 驚きポイント

「とりま、ちゃっちゃと作るね。先輩方、お腹減って気が立っているっぽ?」


「なるほど」


納得だ。


「……いや、予想ついてるんだけどさ……」


龍二はため息をついた。


--


料理は美味しかった。

こう、手作りの暖かさって良いよね。


「むむ……昨日のハネさんの料理も美味しかったけど……杏那さんの料理は別格にゃあ……」


「昨日の料理も私だけどね?まあ、お店で売ってるお弁当だから、味付けは違うかなー」


「にゃああああ!?」


僕の食生活は、杏那の店で買うか、杏那に作ってもらうかだからね。


「杏那、腕を上げたな……」


「お兄と違って落ちこぼれですからねー。手に職をつけないと生活していけないんです」


杏那が半眼で睨む。


「ううう……こんなに美味しいなんて……」

「これは……勝てません……」


いや、栗原はともかく、模合はかなり料理上手だよ?

……まあ、本職には当然負けるか。

相手が悪い。


「で、杏那。お前まさか、ここに住むつもりか?」


「それお兄に関係あるの?」


「「ここに住む!?」」


栗原と模合が叫ぶ。

驚きポイントじゃない筈だけど。


「あの……私もここに住みたいです!」


「え、無理」


部屋が……無い訳じゃないけど、家具も無い、というか、何で?

寮があるよね?

龍二がいる訳でもないよね?

おかしいよね?

まさか、昼間言ってた冗談が半分くらい本気だった?

僕のスキル目当て?

お金目当て?

まさか。

模合は、そんな女の子じゃない。

龍二に対して好きすぎて暴走気味になる事はあるけど。

根は良い人だと思うんだ。

龍二が休みの時とかも、良く助けてもらっているし。

信頼できる仲間だ。


でも。


そもそも距離感がおかしいよね。

初めて来た男子の家に、そのまま住むとか言わないよね。

ずっとPT組んでて、知ってる仲とは言え……?


「あの、先輩が困っているので、御冗談はおやめ下さい。ミアさんの部屋とか整えるだけでも、一苦労なんですから」


杏那が、素でつっこみを入れる。

なるほど、冗談か。


「気持ちは分かるが、やめとけ。杏那は大丈夫だ」


龍二が、呆れたような様子で、模合の首根っこを掴む。

栗原は苦笑い。


そのまま駄弁って、解散。

龍二達が帰り。

あとは、僕、杏那、ミアが残る。


「さて、ミア。改めて紹介しよう。杏那だ」


「初めましてミア!異世界から来たらしーし、色々大変だと思うから……サポートするから頑張ってね!」


杏那が、ミアの手を取り、ぶんぶん振る。


「初めましてにゃあ……えっと、アンナさんは、ハネさんの……?」


「私は、羽修のセフレだよ!」


「ぶっ」


ミアが真っ赤になって後退り、頭を振った後、


「そ、そういう、下品な冗談はどうかと思います……にゃ!」


杏那が小首を傾げる。


「杏那……初対面の相手にそれはないだろ。僕と杏那は、戦友。共闘者。……そういった存在だろ?」


「戦友であり、セフレじゃん?というか、一緒に暮らすんだから、隠せなくない?我慢できないっしょ?」


ぐ。


「そ、そうじゃなくてだな。あくまで戦友というのが主な関係性であって……」


「冗談じゃなかったですにゃ!?」


ミアが泣きそうな顔で叫ぶ。

嘘ではないな。


と、とにかく。


「今ミアが着ているのも、杏那の服だ。というか、ベッドとか一式そうだな。今度の休日に、ミアの私物を買いに行こうと思う。杏那のセンスを頼るから、安心して良いよ」


「ん、任せて!」


「あれ杏那さんの部屋ですにゃ!?」


杏那は、苦笑いして、


「ごめんねー、胸きつそうだね!やー、私もミアくらい大きかったら、羽修も嬉しいんだろうけど!」


「い、いや、僕は別に胸の大きさでは」


「きゃは!何真面目にコメントしてんの!ミアちゃん真っ赤じゃん!」


うお。


「あ、私は、杏那の部屋整えるまでは、羽修の部屋に泊まるから大丈夫だよ!」


「悪いな、窮屈な思いをさせて」


「いつもと一緒じゃん?」


杏那が胡乱げな目をする。

……まあ、客室使う頻度はそう高くはないか。


「……にしても、悪かったな。店の手伝いもあるのに、変な事頼んで」


「んー?別に良いよー?親にはちゃんと自立するって言って来たし。ちゃんと私の学費や生活費の分は稼げるんでしょ?」


「そこは安心してくれ」


「まあ、永久就職って奴じゃん!」


引退するまではPTメンバーとして働いて貰うので、永く就職するという意味では間違いではない。

間違いではないが、違う。

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