第22話 手助けと感謝
つぶらな瞳がフタにくっついてしまった。
「ああ〜、ざんねん!」
となりの席のヤマチが私以上に私の感情を表現した。それから取ってつけたような、なぐさめの言葉。
「でもさ、目をべつにすると、すごく上手いよね」
「画竜点睛を欠く」ということわざみたいだ。今日のキャラ弁。
私の通う小学校は、お昼が給食ではなくお弁当だ。
キャラ弁を持って行ってみたくて、お母さんと一緒に作ったら、ごはんの量が予定より多くなったのだ。
ごはんの表面にしきつめた金糸玉子やハムや海苔がフタにくっつかないように、私はいつもよりごはんを少なくしようとした。
お母さんに、それでは少なすぎると反対された結果がこれだ。
それでも私はスマホのカメラを起動した。フタをする前にも撮っておけばよかったと後悔しながら。
味は美味しかったけれど、ガッカリした気分がまさった。
考えてみれば、私はキャラを知らないお母さんにも分かるように完成想像図を描いて、盛り付けただけだった。料理じたいはお母さんがほとんどやってくれた。
私は無力だ。
つぎの日曜日、お姉ちゃんは模試、私はヤマチの誕生日会で、帰りにお母さんが迎えに来てくれることになっていた。
誕生日会は楽しかった。
道順として私が先にお母さんの車に乗り、お姉ちゃんの通う塾のちかくの駐車場に車をとめて中で二人で待っていた。
渋滞にまきこまれず、信号のタイミングもよく、予定よりだいぶ早く着いた。
ゲームアプリで遊んでいると、お姉ちゃんより年上の女の人があらわれた。
「すみません、うちの娘を見かけなかったでしょうか……?」
女の人は娘さんのとくちょうを詳しく話した。髪型、服装、もしかすると男の子に見えるかもしれないことまで。
でも、ゲームしていた私だけでなく、お母さんにも心あたりはなかった。
「ついさっき来たばかりですが、あいにく見かけませんでしたよ」
ありがとうございます、と困り顔でお母さんに言うと女の人は去っていった。
「今日みたいな暑い日は、どこかで具合が悪くなっていたら大変だわ」
お母さんは迷子の親子が可哀想になったのか、お姉ちゃんを待つ間も心配していた。
そろそろお姉ちゃんと待ち合わせの時間になるころ、さっきの女の人がまた車に近づいてきた。こんどは笑顔だ。
「ありがとうございます! おかげさまで見つかりました」
そういえば、駐車場の入り口に子供を抱いた男の人がいる。
私たちは女の人の話を聞くほかに何もしなかったけれど、よほど安心したのか、まるで私たちが娘さんを見つけたみたいに感謝してくれた。
人は結果が良くて嬉しければ、何もしなかった人にまで感謝するものらしい。
では、良い結果ではなかったけれど頑張ってくれた人がいるときは……?
やっぱり感謝するべきだろう。
「お母さん、キャラ弁美味しかったよ。ありがとう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます