第18話 仔猫、固まる

 誰かにダメ出しされると、その誰かに近づく選択を咄嗟には出来なくなる。


  *  *  *


 自宅のまえの表通りを野良の仔猫が渡る。

 可愛いが無責任に餌だけ与えるわけにもいかず、来るたびに追い返していた仔猫だ。

 素早く動けるくせにここはゆっくり歩く。


 視界の端に自動車が見えてきた。

 仔猫は車道のまんなかにいる。

 焦って大きな声を出した。

「こら。急いで」

 急いで来て、という意味だ。

 向こうに戻っても構わないが、直進するほうが簡単だろう。猫も車も。

 とにかくこのままでは危険だ。


 仔猫はその場に座りこんでしまった。

 きょとんとこちらを見上げている。


 自動車が止まった。

「それ、危ない、危ない」

 車を降りた運転手に囃すような調子で促され、仔猫は道の向こう側にゆっくり戻ってゆき、事なきを得た。


 うちの猫ではないが運転手に謝った。

 どうやら猫好きな人で良かった。






 

(この話のモデルになった猫はその後もたびたび筆者宅に来ました。嫌われなくて良かったです。

 猫のほうも自分自身が拒絶されたとは露ほども思わないのが、人間の叱られた場合と大いに違うところです。

 この猫は数ヶ月後に近所の家に引き取られ、可愛がられています。

 めでたしめでたし)

 









 

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