第15話 車線変更
体調を崩して仕事を辞め、恋人と別れ、学生のころから暮らしていた都内のアパートを解約して私は地元に帰った。
全てを失って再出発……という言葉は当てはまらないだろう。世界にはもっと何も持たぬ人がいる。
回復した今、両親の営む店で働いている。子供のうちは継ごうと考えたことはなかったが、近い将来そうなるだろう。
趣味のイベントも、学生時代からの友人に会うことも、単館上映の映画も遠くなった。
しかし地元の喫茶店のコーヒーが思った以上に美味しいことを知った。
車中心の生活にも慣れてきた……と言って良いだろう。
いまの暮らしに行き着くように見えない道が敷かれていたのではないか……と時々思う。
私個人に誰かが誘導するのでも強制するのでもない。この町にはこの町の、都会には都会の、田舎には田舎の、それぞれに見えない道が張り巡らされており、この町のこの家族にたまたま私が生まれ落ちた。
世の中には自分の置かれた見えない道をすんなり受け入れて速く進む人がいる。
生まれた町とは別の場所で縦横無尽に活躍する人がいる。
かつての私は自分のいる道ではなく、河に隔てられた向こう側の道を見て、そちらへ行こうとし続けていたようなものだ。
進学を機に、家族は送り出してくれた。
見えない道に上手く乗り入れることが出来ず、再び橋を渡り、戻ってきた。
私には、そうすることが必要だった。
(イベント参加に間に合いませんでしたが、
「見えない道」というお題から思い浮かびました)
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