第13話 絶対に離さない。その1

「あなた様は、あの時のおねぇ様ですよね」


 赤い髪をショートカットにした女の子は高級そうな布地で仕立てたられた赤のローブを身にまとい、価値がありそな赤い宝石がついた小さなロッドを持っていた。


 方や、わたしは相変わらずのトレシャツ(ピンク)とオジ槍(弁当屋さんのおじさんからもらった鉄の槍)である。これが貧富の差なのだろうか。この子はたしか、はい、邪魔、の私が突き飛ばした女の子だ。ま、まさか、


「ど、どうしたのかな? わ、わたしにごにょう、かな?」


 私は、しどろもどろになって 彼女に片言で話してしまう。頭の中は高そうな槍のことでいっぱいだった。あれはミスリル製の高級槍だと思う。


「はい、そうです、探しました」


 そうハキハキと言う少女を見た私は、ひぃああああああと叫ぶ私と、札束に羽がついて空の彼方に飛んでいく幻がみえてしまう。


「えーと、私の場所がよくわかりましたね」


「先ほど、お弁当屋のおじさんが教えてくれたんです。あのとき、お弁当と野菜が落ちていたので」


 わ、わたしとしたことが、証拠を残していっちゃったよ。それと、おじさん、だめだよ、わたしの友好度がダウンです。


「あと野菜とお弁当を探知スキルで適合させて探知したんです」


 なんて恐ろしいスキルを持っているんだろう。これは絶対に逃げられない。そうそうヒロイン様もエイリアスによく探知スキル使われて束縛されてしまうんだよ。お前を死なせるわけにはいかないからと言って、監禁モードで毎日ヤラレテたいへんなんだよね。私は借金でたいへん、たいへん、いやああああああ!!


「ここではギルドの方の邪魔になりますので、こちらでお話ししませんか」


「はい」


 わたしは覚悟を決めた。分割でお願いいたします。


 そして、王都の中央広場のベンチに座り彼女の話しを聞くことにした。


「それで私に御用とはなんですか」


 御用? 御用改である。お金がないだと、実にけしからん、縄でくくられて奴隷市場へ。アホなことを想像してしまったよ。わたしって、バカで変態なの。


「あのとき助けていただいてありがとうございます」


 彼女は頭を深く下げて礼を言う。私はそれとなく、槍のことを聞く。


「いえいえ、あの、槍は?」


「槍? もうダメかと思ったとき、颯爽と、おねぇ様が現れて、わたしには攻防がほとんど見えませんでしたが、お見事な槍さばきと言う他なかったです。どうかしましたか?」


 折れた槍のことじゃないんだ。よし、話をそらして、逃げちゃう? ごめんね。


「あはは、礼を言われるほどでもないし、気にしないでいいから」


「なにを言われますか、おねぇ様はこの国を救ってくださった英雄なのですよ。私の命の恩人でもありますし」


 この子、あの雑魚のユニークモンスターで大袈裟だよ。いつもなら、奇襲して先制攻撃して終わりだったけど、今回は非常事態だったしね。あの兵士さん達も装備に頼りすぎなところがあるから、経験不足じゃないかな。低LVの人が強い武器をもっちゃうと、俺ツエーして張り切っちゃうのはいいけど、同等の敵や格上が出るとすぐ倒されちゃって、パーティの足手まといになるパターンだよね。きっと彼女達も同じで、まだまだ初心者なんだろうね。何事も経験が必要だと思うよ。がんばれ、がんばれ、応援してるからね。


「そこまで気をつかわなくていいから、これからは気をつけてね」


 それじゃと、わたしは逃げようとしたのだけど、


「そうでした、本題はこちらなのですが、父と兄が私を助けて頂いたことでできる限りの謝礼を考えてくれているそうです、是非、お会いしたいそうです」


「はい?」


 謝礼ですか? この子、お金持ちだよね。もし謝礼を頂けたら夕飯にデザートをつけられるかも。でもお金持ち=権力者の親。ああ、だめだめ、だめだよ。絶対に面倒な事が待ってる。


「いえいえ、お礼は言葉でもらえたから、いらないから、お気持ちだけで十分だから」


「おねぇさまに是非、お礼がしたいんです」


「いやいや、本当にいらないから」


「そんなわけにいきません。絶対に返事をもらうまでわたし、」


 突然、彼女はわたしのトレシャツを掴みだした。


「絶対に離しません」


 彼女は半泣きになって、ぎゅっとわたしのトレシャツを握りしめた。やめて、これ、安物だから、すぐ伸びちゃうから、お願い、やめて~、わたしも半泣きになっていた。


「わかったから、わかったから、やめて」


「本当ですか、それではご案内しますね」


 さっきまでの、泣き顔か嘘のように明るく彼女は笑っている。わたしだけが半泣きのままだった。わたし、やられた? 頭の中に浮かぶシーンがあった。エイリアスが逃げるヒロイン様を泣きそうな顔をして抱きしめ絶対に離さないって言うシーンが、そのままヒロイン様はまんまと大人しくついていって監禁コースへまっしぐら、わ、わたしは大丈夫だよね。


 少し寄れてしまったトレシャツのまま、彼女の後をついていく私だった。

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