4.初パーティー、草原で華麗に散る

F級魔領域 【無限草原むげんそうげん

名前の通り見渡す限り草原の続いている魔領域。

低級魔物しか出現せず、隠れる場所なども無く奇襲の心配などもない。

見渡しがいいため、万が一ピンチになっても他の冒険者に助けてもらえる確率が高い。


そのため初心者は基本この魔領域から冒険者生活をスタートさせる。

少なくとも冒険者歴2年目と3年目がパーティで潜る所ではない。


闇兎ダークラビットを探し草原を歩きながらエリスに話しかける。


「エリスさん、パーティー申請なんですけど、このクエスト終わってからでいいですか?」

「うん、いいけど? どうして急に敬語?」

「いや一応年上ですので」

「なんか寒気がするから止めよう? もしかしてこれもプレイの一種?」


よく分からないことを言い出すエリスにツッコミを入れる。


「プレイとか言わないで! 俺はあくまでスキルのためMをやってるの! 言うならばビジネスMなんだよ」

「なるほど……なら私もビジネスSってやつだね」


二人で怪しい会話を繰り広げていると、討伐対象の闇兎ダークラビットを発見した。


「いた……闇兎ダークラビットだ」

「ふふ……ここは私に任せてよ」

「ちょ、ちょっと待って」


そう言うとエリスは俺の制止も聞かずに闇兎ダークラビットに向け走り出す。

え……魔術師なのに近接戦闘するのか? 射程距離の短い魔術でも使うつもりか?


どんな攻撃をするのか疑問に思っているとエリスは持っていた杖を思いっきり頭上に振りかぶる。

『スパンキング・ロッド』‼


えぇーー! 直接打撃ぃーー‼

まさかの攻撃に驚いていると身軽に闇兎ダークラビットはその攻撃を回避する。


「あれ?」


エリス渾身の攻撃はあっさり闇兎ダークラビットに避けられる。

そして闇兎ダークラビットはエリスに向け体当たりを繰り出す。


キュワァァー

「ギャフッ‼」


大振りな攻撃をかわされ体勢を崩していたエリス。

当然回避できるわけなく体当たりに吹き飛ばされる。

滅茶苦茶飛んだな~、10メートルくらい飛んでるかね~

あれ? 闇兎ダークラビットってあんなに強かったっけ?


吹き飛ばされたエリスがまるでゾンビのように這いずってくる。


「ア、アルフさん……後は……任せました……ガクッ」


エリスは力尽きた


「う、嘘だろ……」


闇兎ダークラビットに一撃でやられる冒険者なんて初めて見たぞ……

ていうか魔術使わないのかよ‼ なぜ直接攻撃するの!?

まぁ疑問は後で本人に聞くとして……今は目の前の闇兎ダークラビットを討伐するか。


「俺が討伐してくるよ」

「ず、ずみまぜん……ザポートはじます……グスッ」

「……なんで泣いてるの」

「自分が情けなくて……」


そんなエリスの無念を晴らすため剣を抜き闇兎に向け走る

俺はFランクだがスキルの効果があれば闇兎ごときに手こずるレベルではない!

一撃で仕留める!


強化斬撃フォルスラッシュ


「さ、サポートを『目隠遊戯ブラインド』!」


突然視界が真っ暗になった

獲物を捉えていたはずの剣は無情にも空を斬る。


「何も見えな……ゴフッ!」


脇腹に衝撃が走り膝を着く

クソ! 闇兎ダークラビットの体当たりか

不味いな……何も見えない……


視界を奪われ混乱している俺に次の攻撃が襲いかかる。


キュワァァー


「グッ! おいエリス! 聞こえるか!」


闇兎ダークラビットに敗れた相棒に問いかけるが返事がない。

ただの屍のようだ。


すると奪われていた視界が戻る。

なぜか半日は続いていた『被虐強化マゾフォルス』の効力も無くなっている。

俺は慌てて倒れているエリスを見つけ、抱き抱えると出口の転送陣まで力を振り絞り走る。


キュワァーキュワァー


後ろから闇兎ダークラビットの鳴き声が聞こえる。

どうやら見逃してはくれないようだ。

周囲を見渡してみるがこんな時に限って他の冒険者の気配は感じない。


「奥の手を使うしかないか……」


正直エリスを抱えながら強化無しに逃げ切れる自信はない。

俺は道具袋を漁り小さな瓶を取り出し、思い切り地面に叩きつける。

こいつは【煙瓶けむりびん】、割ると文字通り煙を発生させる。

主に逃走に使われる魔道具だ。


周囲が煙に包まれる。闇兎ダークラビットはどうやら俺たちを見失っているようだ。その隙に力を振り絞り草原全力で走り転送陣にたどり着く。



そして初めて暫定パーティーで挑んだクエストは失敗に終わった。

あぁ……こいつとパーティー組むの止めようかな……





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