第57話 神託の行方

 天界は揉めていた。天界でも異質で誰の力にも屈する事のなかったプロメテウスが死滅してしまったのだ。それも地上の生み出した最強の戦聖女が神の領域に到達した瞬間でもあったのだ。神々は新たな脅威に動揺を隠せなかった。


 ましてや、神々のなかでも、既にポセイドンとアテナは、地上擁護を表明しており、天界でもヘルメスを中心に地上の維持を推奨している。


 地上浄化に賛同する神々は、現状殆どが負傷している状況にあり、直ちに目的を遂行するのは、不可能であった。結論としては、再び地上侵攻を行うには、かなりの時間を要すると言う事だった。






 先日、クロエの覚醒を成功させたメルティアは、セージ達専属魔道士達の強化も行った。クロエを除く6人も覚醒とまではいかないが、能力を飛躍的に強化し天使軍を圧倒出来るほどの進化を遂げた。


 ファンタム他4魔聖の強化を入念に行い、メルティアの固有魔法も授けた。


 シェスターやシーベルに、若干引けをとっていたアルフィンは、魔力強化徹底的に行い覚醒に成功していた。


 ここに、ポセイドンとアテナの助力が得られれば、天界の総攻撃にも耐える事が出来る程になっていた。ついに神託で伝わる結果を覆すだけの準備は整ったのだった。




 大陸内の情勢は、アンゼルが統制しており安定していた。


 しかし、隣国であるルゥバーズがどうにもならない大恐慌わを起こしており、またベラントラルから狙われ始めていたのだ。


 メルティアは、ルゥバーズの王女と友人関係でもあり、クロエとアルフィンの二人を連れて暫くの間ルゥバーズに療養を口実に滞在する事にした。


 実際は勿論クロエとメルティアの祝福の効果を狙った滞在であった。


 メルティアの持っていった支援物資は、ルゥバーズを潤した。更には2人の聖女の滞在は、作物の育成や、経済の回転に絶大なる効果をあげ出していた。


 そんな毎日の中、メルティアの顔を見たい町の市民達が連日城に押し寄せる様になり、城外は人だかりとなっていた。


 市民にもメルティアの病状が芳しく無い事は伝わっていたが、それ以上にメルティアは、ら人気があったのだ。


 身体の動かせないメルティアは、車椅子に乗ってアルフィンに連れられ城外正面のバルコニーに顔を出してみた。


 そこには、ただメルティアの顔を見たいだけの善良な市民達が静かに、いつ出てくるかも知らないメルティアを待って座り込んでいた。


 「ほら、貴方を待ち侘びている市民が見渡す限りいるよ。」アルフィンは、自分の事の様に嬉しそうにメルティアにはなしかける。


 バルコニーから、メルティアが顔を出すと、気付いた市民達から大歓声が上がる。


 「相変わらず、お美しい!」「ようこそメルティア様!」「わざわざ私達の為にありがとうございます。」「早く元気になって下さい!」歓迎の声が止まない。


 メルティアはアルフィンの肩を借り翼を広げて立ち上がると軽く手を振った。メルティアは、念話で市民に語りかける。


 <<私の為に集まってくれてありがとう。皆さんも大変な時期ですけど負けずに頑張って下さいね。どうしようもない人は城に明日出向いて頂ければ相談に乗れるようにしますから、大丈夫ですからね。>>


 城外の人達は一斉に平伏し、ただただ感動していた。





 メルティアは、クロエをベラントラルの使者として送った。ルゥバーズとの不戦協定の破棄を牽制する目的である。


 クロエの様なまだ幼い聖女を使者に立てた理由は、アンブロシア魔道士の層の厚さを見せつける目的である。


 恐らくは、ベラントラルはクロエを受け入れ無いだろうと踏んでおり、少しクロエをベラントラルで暴れさせるつもりなのだ。


 クロエは、翌日にはベラントラルに入り城を訪問した。門番は予想通り親書を見せてもベラントラル城に入れてくれない。


 「主人には、この様な時は多少手荒でも、役目を果たす様言われて来ましたので・・・私を入れなかった貴方達がいけないのよ。これでも私はアンブロシアの第二聖女なんですから。」


 『ディメンション・バースト』空間爆発起こして全てを破壊する魔法が放たれる。


 門番や、クロエを止める者は全て弾き飛ばして、玉座の間に進んで行く。だれも止められないのだ。


 玉座の間に入ると、クロエは丁寧に一礼すると、玉座に向かって近づいて行く。


 「止まれ‼︎」


 ベラントラルの最上級魔道士がクレイランスをクロエに打ち込んでくる。


 クロエの前で土の槍は消えてしまう。


 「魔法とは、こう使うのよ」


 玉座の間よ天井を突き破って、クロエのホーリー・ランスが敵魔道士の前に着弾した。魔道士は尻餅をついて失禁してしまう。


 「ベラントラル王よ、貴方は他国の使者をこの様に迎える野蛮な、礼儀を知らない国家なのですか?私はアンブロシア第二聖女のクロエと申します。」


 「うむぅ、失礼した。」


 「アンブロシアの意志はお分かりですね。ルゥバーズとの不戦協定の確認に参りました。」


 「あぁ、分かっている。約束は守る。」


 「分かりました。女王メルティア様もお喜びになるでしょう。それでは、失礼致します。」


 クロエは座標を記録すると、空間移動を使って帰っていった。

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