第34話 アンブロシアと新領地

 アンブロシアの国内は安定していた。


 少し前のエールドベルグをペナルティ付きで退け、時期国王には、メルティアが女王として即位することが決まり、国民は安心して生活できていた。


 更に、やはりメルティアは、聖女なだけあって国内でのメルティアの滞在期間が長くなった事から、聖女の祝福の良い影響がでていた。


 作物の出来や商業の発展が素晴らしく、貧困層の生活もが爆発的に改善した経緯があった。


 人々は、口々に教皇と皇女を讃え、国は一つになっていた。影にはアルフィンの世論操作があり、国民の忠誠が高く保たれたのが大きく効果を上げたのだ。アルフィンは、その魔力量・魔法技術ばかりではなく、極めてインテリジェンスが高く、諜報能力にも長けていたのだ。

 




 一方、北の魔族領地は、アンブロシアの支援により潤っていた。シーベルの善政も奏功し、魔族達の信用も勝ち取り、人間との共存に理解を示す魔族も増えた。


 魔族も考え方が変わっているものの、中々のイケメン、人からすると特殊能力持ちであり、人間の女性と結ばれる者も出てきた。魔族の女性も基本的には美人が多く、文化の違いが補えれば、パートナーとして考えられそうなのだ。


 そんな中、メルティアは、シーベルとクロエをお供に開拓地を訪れていた。


 魔族にとってもメルティアの存在は、魔王を倒した事による畏怖と、魔族から見ても別格の美しさを評価されており、特別な存在として受け止められていた。概ね歓迎されている状況にあった。


 メルティアは、魔族側の統治者から、挨拶を頼まれていた。


 メルティアは、いつものように真っ白な魔法着に、薄桃色のローブを纏い、魔族の前に立った。そのプラチナの様な輝く髪に、魔族の真紅の瞳とは対象的な真っ青な瞳は魔族の民衆の注目を集めるに十分な魅力があった。


 メルティアは、自分達と相容れなかった、魔王とは言え葬り去った事についての謝罪をのべる。魔族にとっては、誇り高い行動を取った指導者であったであろう事を讃えた。実際には、これまでの魔族の生活状況がかなり悪かったらしく支援を前向きに行ってきたメルティアに対しては好意的な反応であった。


 それどころか、メルティアを魔族を含めた女王として認める動きが表面化しており、魔族領自体アンブロシアに取り込まれる事も容認する流れができつつあった。


 強いものに従う。それが、メルティアを認めさせた大きな要因となったのだ。


 「魔族も皆んなメルの色香に惑わされたらしいな。」


 「なによ、あんまりいやらしい言い方しないでよ。ベルだって頑張ったから魔族も認めてくれたんでしょう?自分を貶めるのは良くないよ。」


 「俺にとっては、メルからの評価以外は、どうでもいいからね。」シーベルは、メルの前で跪いて話す。


 「メル・・・僕との関係も真面目に考えてくれる約束だよね。シェスには、かなり遅れを取ってるけど、同じ土俵に上げてくれないかなぁ。」


 メルティアは、少し悲しい顔をした。


 「多分私はもうシェスの物よ。ここから巻き返すなんて無理かも・・・そして、シェスは私が一人になった時、真っ先に私だけにその心をくれたんだ。」


 「あぁ多分そうなんだよね。メルがアンブロシアから追われた時、僕が攫って逃げていたら、きっとシェスと同じ事をしてあげられたのに・・・」


 「うん、解ってる。ベルは、最後に私に言ってくれた、君は生きてくれって・・・そして、国境の門を閉じて追手が私に届かない様に戦い続けてくれたんだよね。あの時はお礼も言えなかった。」


 メルティアは涙を溜めてシーベルに寄り添う。


 「でも、あの時本当に欲しかった物は、貴方が私の傍に居てくれる事だったんだと思うの。シェスとの差はそれだけだったんだ。」


 「解ってる。それでも君を愛しているよ。今からでも君を攫って逃げたいよ。」


 シーベルは涙が溢れないよう上を向いた。





 現在オルドランは、政治的にはアンブロシアが統治しているが、治安については今後の方針が決まっていなかった。


 さすがにアンブロシアの左兵士にさを常駐させると、現状の戦力がかなり分散してしまい上手くない。かと言って、魔族のみで部隊を編成出来る程、魔族内のモラルが固まって居ないので反乱の原因になりかねないのだ。


 そんな中で大きな力になっているのは、7人の幼魔導師達である。オルドランの統治開始時から、シーベルと共に魔族と接してきた経緯もあり、ある程度の魔族からの信用も得られていたのだ。


 彼らの魔法師としての能力もかなりのものになっていたのだ。とは言えいつまでも彼らにばかり甘えてもいられないのだ。


 メルティアは、魔族の中から信頼出来る人材を探し出す動きを始めたのである。


 「魔族の若者達の中から、士官を求めましょう。その中から優秀な若者をアンブロシアに連れ帰って訓練して、武官として採用するのがいいでしょう。」


 「じゃ、早速公募の条件を提示して、掲示板で掲示しましょう。」


 また、アンブロシアの戦力が、否が応でも強化されて行くのだった。

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