第30話 魔王再戦

 シーベルら3人は、メルティア・シェスター・クロエの3人を辛くも救出に成功はしたが、メルティアが極めて重い傷を負い、しかも魔封具を外せない状況での帰還であった。


 魔封具はかなり厄介なもので、装着している者の魔力を無効かするだけでなく、周囲から回復魔法などの介入についても遮断してしまうのだ。


 メルティアはアンブロシアに戻ってきても回復魔法一つ使うこともできず、ただ苦痛に耐えるのみでアルセンシア城の最奥の寝室で横になって過ごしていた。


 メルティア自体は極めて元気よく振舞っており、明らかに無理をしているのがわかるのだった。


 「シェス、そんなに心配しないで・・・そのうち治るよ。」


 「そんなはずないよ、とにかくその魔封具を解除させるか、破壊しないとメルの命が危ない。」


 「今回はメルの精神治療のためにクロエを連れて行ったが裏目にでてしまった。とは言え敵の戦力もわかった事だし、次は俺とシェスと二人で乗り込んで殲滅してくる。」


 「・・・魔族もすべてが悪人ではないと思うんだよね。魔王と合意できるなら、私を作り上げた突然変異誘発の禁呪を使えば魔族の衰退を抑える事ができるかもしれない・・・」


 「あまいなぁ、きっとシェスは魔王を殺す気で満々だよ。」


 「ちゃんと、最初から教育すれば、いい友人になれるんじゃないかと、思うんだけど・・・だめかな?」


 「今回に関しては、俺も魔王は生かしておくつもりはないよ。」


 「そんななんにも無いふりしてるけど、もうメルを痛みに耐えさせるのは我慢ならん。行くぞベル!」


 「今回は同感だ。」


 「皆殺しはなしで・・・お願い・・・」





 魔王城に遠隔転移する。乗り込んでくる魔導士を待ち構えるように出現場所の周囲はすでに囲まれていた。


 シェスターとシーベルは散開してして、それぞれ攻撃に移っていく。


 シェスターは得意の凍結魔法で魔族を葬っていく。シーベルは真紅の電撃魔法で焼き払っていく。


 一見、圧倒的な戦闘に見えているが、地面には大きな魔法陣が展開され、魔族の得意とする暗黒魔法が二人の存在する空間を支配していく。


 二人は気付いたがもう遅かった。


 「ぐっ・・・息ができない・・・」


 「っち、やられたのは我々の方だったってことか・・・ほかの魔法が発動しない。」


 魔王の準備した絶対魔法空間の中に二人は閉じ込められてしまったのだ。この魔法構成を破壊できるのは、配置された暗黒魔法を上回る、聖属性魔法のみである。


 完全に敵の作戦にはまってしまったのだ。


 「うああああああっ」

 「ぐうううううっ」


 シェスターもシーベルも防げない黒炎に焼かれる。自らの魔法耐性にも限界があり、徐々に削られていく。


 もう限界も近い状況になり倒れ込み意識を失いかけたその時・・・


 『コンプリート・ピュリフィケーション!!』


 シェスターとシーベルの目の前には、ボロボロのメルティアが出現して座り込んでいる。


 「助けに来るの遅れてごめんね・・・うっぅぅ」苦痛を我慢しながら、魔力を放ち続ける。


 《バキキィイイィン》


 大きな音とともに、暗黒魔法陣は微塵に砕け散り消え去った。


 「流石は、戦聖女・・・その体で、その魔封具を引きずってまで魔法を発動できるとは・・・」


 「残念ね、慣れてしまえばこの魔封装備を超える魔力を放出することは簡単です。魔封装備の魔封構成を解析するのに少し時間がかかっただけ・・・舐めないで。私も伊達で固有の称号をもらっているわけではないのよ。」


 会話とは裏腹にメルティアはとても辛そうだ・・・長時間は持ちそうもないのだ。


 「ふうぅっ・・・魔王よ・・・私もう待ってあげる時間がないわ・・・決めて!私に従うか、逆らうか・・・まだ、解らない?あなた一人消すのなんて、目の前の埃を払うようなものなの。解らない?」


 「・・・従うわけにはいかない。だが、願わくば・・・残る種族については自由にするがいい。」


 少しの沈黙の後、メルティアの詠唱は終了


 『オメガ・フォトン・ブラスト!』


 メルティアは魔王に向けて右腕を翳す。メルティアの腕から真っ白い光の閃光が放たれる。抵抗も空しく魔王は心臓を貫かれて倒れる。


 メルティアは、シェスターとシーベルに向き直ると、回復魔法の詠唱を始める。


 『インフィニティ・エリア・ヒール!』


 シェスターとシーベルのひどい全身火傷が瞬時に治癒してしまうのだが、やはり魔封具を付けているメルティア自身には効果がない。


 さすがにメルティアも大量の吐血を吐くと、苦痛の限界に耐えかねたように倒れこんだ。


 シェスターはシーベルにメルティアを任せると、自分の渡した特殊魔法ブローチとメルティアを苦しめている魔封具の鍵をベルリオーズ城内を駆けずり回って探した。


 結果、ブローチは見つかったが鍵がない。


 「どういうことだ!!」


 上位魔族達を捕まえては片っ端から聞いていく。結果、鍵は存在しなかった。魔王が自ら解除しない限り外れないという事だった。


 二人は愕然としたが、とりあえずアンブロシアに戻って、別の解除方法を探さなければならなくなった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る