第7話 二度目の逃亡

 カルセドの剣劇は、嵐のようにルメイラを打ち据える。ルメイラは顔を顰めるが、正面から剣劇を捌いている。


 「流石は、皇女様の専属聖騎士ですね。でも選出時に私がいたらあなた選ばれていないんじゃないかしらね。」


 『爽迅霧雨』


 捕え得られないほどの数の高速剣の嵐がカルセドを襲う


 《シュガガガキキィィィィィン》


 「ぐぅ・・・」


 カルセドは切り裂かれ一瞬にしてボロボロで、筋肉にも届くほどの深さの切り傷が全身につけられる。


 ダメージ事態はそれほどでもないが、出血が多い。


 「小賢しい、技だな。」


 「動きが止まったぞ、カルセド。」


 『爽迅一閃』


 《キィィィィィィィン》


 「ぐあぁ」


 一瞬ルメイラの身体が霞んだように感じた瞬間カルセドの腹部にルメイラの高速剣が命中、切り裂かれる。今度は内臓に届く致命傷だ。カルセドは膝をつく。


 「いい腕だ。だが、私も二度と姫様の前で無様は晒さない!」


 「ほう、やってみろ。」


 ルメイラは不敵に笑う。


 『爽迅一閃』


 もう一度、高速剣撃が腹部を薙ぎ払いに来る。


 ルメイラの長剣はカルセドの腹部に命中するが途中まで、食い込み止まってしまう。


 剣が抜けず、ルメイラの動きが一瞬止まる。


 カルセドは『金剛』という体の筋肉を硬化させる技を用いて剣劇をわざと受け止めたのだ。


 『轟撃雷天』


 上段から振り下ろされる剣撃の摩擦により生じた雷撃を纏い、剛剣がルメイラに振り下ろされる。


 ルメイラは、咄嗟に懐の短剣で受けに行くが、短剣ごと破壊されて、左肩から右脚にかけて切り伏せられた。


 「ぐはっっ」


 ルメイラは鎧ごと袈裟切りにされ、吹き飛ぶ。


 勝負はついた。高速剣は剛剣によって撃破された。


 ルメイラは戦闘不能だ。


 カルセドも膝をつき腹部を抑える。


 出血で立っているのがやっとの状況だ。


 それでも、ふらつきながら、メルティアの傍に歩み寄り報告に行く。


 「カルセド、敵を撃破いたしました。」

 「うん、ちゃんと見てたよ。ありがとう、私の聖騎士。」


 『トリプレッドハイヒール(ハイヒールを3回同時重ね掛けした応用治癒魔法)』


 全身の傷と深い内臓損傷含めて完治せしめる。


 「な、何をしてらっしゃるんですか!!それはあなたが自分自身にお使いになるべき魔法です。」


 「今は、ここまでが限界・・・ふうぅ。」


 「はぁ、この方はそういう方ですから、近寄ったあなたが悪い。」

呆れ顔でアルフィンが話す。






 目を後方に移すと、ゲイルとシェスターの魔法戦が進行している。


 『ポイズンフォグ』『ステイスロウ』『ダークイレース』


 同時重複詠唱による暗黒魔法は、シェスターの動きを封じていく。


 『フリージング・レイピア』


 シェスターの全てを氷つかせる青い刺突は、『ダークイレース』によって分解されて消えていく。


 「っち、こういう組み立て魔法苦手だ。」


 『ワイド・ピュリフィケーション』『フリーズ・エンチャント』


 敵の魔法を消去して、細剣に絶対零度を纏わせると切り込んでいく。


 賢者といっても、シェスターは細剣による剣術も得意としていて、単独で剣聖の称号も持っているのだ。


 シェスターの剣劇は『ダークプロテクション』による防御を切り裂いてゲイルを追い込んでいく。


 「おしい!」ゲイルはつぶやく。


 『ダークサイクロン』


 黒い風を巻き起こしシェスターを押し返す。


 黒い風を浴びるたびにシェスターは、魔力を削られていくのがわかる。


 「くそっ、近づけない。ならば・・・」


 『ブルーフレイム・フィールド』自分の周囲に超高温の蒼炎による防御空間を布き、『ライトエンチャント』で光を纏わせた細剣で、闇を切り裂きながらゲイルに近づいていく。


 「万策尽きたかね?」


 『カオス・ポイズンプラズマ』


 毒と感電効果をもつ、電撃攻撃は、蒼炎の防御空間に防がれ気化して消えていくが、消耗する魔力はシェスターの方が大きいのだ。


 「さて、普通に戦うと貴様の魔法は、魔力消費も少なく、守るに硬い。だがお前の弱点は一瞬の戦いには向かないところだ。」


 シェスターは最強魔法で勝負を決する事を決めた。


 「そうかな?」


 ゲイルもまだ、隠し持っている魔法があるようだ。


 シェスターは胸を張って公言する。

 「今君を倒せるのは僕だけだからね。負けてあげられないんだよ。」


 『インフィニティ・フリージング・レイ!!』


 超高速の全てを凍結させる光の一閃が、ゲイルの眉間を狙って放たれる。


 『コンプリート・デス!!』

 

 ゲイルの最強魔法、100%の確率で致死に誘う最強の暗黒魔法。


 シェスターはその背後で二重詠唱により、もう一つ魔法を準備していた。


 『スペル・リフレクション!』。


 ゲイルは気づくがもう遅い。


 実はゲイルも重複詠唱で『スペル・リフレクション』を背景に準備しており、同じ魔法を双方が背景に重ねていたのだ。


 『インフィニティ・フリージング・レイ』はゲイルの手前で跳ね返され、シェスターに向かって反射されたが、『ブルーフレイム・フィールド』に威力は減衰され、シェスターは、左肩を撃ち抜かれただけで済んだ。


 一方、『コンプリートデス』は、シェスターのスペルリフレクションでゲイルに跳ね返される。


 ゲイルにとって、自分最強の致死魔法は回避不能であり、2秒後にゲイルの命を奪う結果となった。


 暗黒魔法の致死効果の高さが勝負を決めたのだ。


 頭脳戦はシェスターの勝利であった。


 左肩を抑えながら、振り返ると横たわるメルティアの元に向かう。


 皇女の目の前で、片膝をついて報告を行う。


 「ただいま敵を撃破してまいりました。」


 「うん、かっこよかった。さすが天才賢者ね。」


 嬉しそうにシェスターの顔を覗き込む。


 「本当に美形だよね。シェスって・・・」


 「な、なんですか?」


 メルティアに見つめられて顔を赤くする。


 「それでいて、彼女の一人もいないなんて不思議・・・」


 「それ言っちゃだめですよ、セリス!シェスは、ずっと姫様一筋なんですから」


 アルフィンは意地悪っぽく笑う。


 「勿体ないな~。」


 メルティアはうれしそうにほほ笑む。


 勝負は完全勝利。


 町には戻れないので、これからは徒歩で冒険しながら、シーライオスに向かうことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る