第二十一話 ライアンとウェザリア

 僕達は店を出た後、誰も時計を持っていないことに気づき、急いで宿舎に戻った。太陽は落ちきってはいないがローズは「日が落ちたら」って言っていたと思う。もうそろ準備しててもおかしくない。


 街自体がそんなに大きくなく、走っていたら直ぐに戻れた。

 

「あら、おかえりー。もうすぐご飯だってー。」


 僕達が靴を脱いでいるとちょうど階段を降りてきたサラスとばったり会う。


「まだ時間はあるみたいだから本とか置いてきな?」


 サラスに言われ、部屋に戻る。


 各々自分の本を別の段に入れる。

 僕は順番を譲ったおかげで二人の本のタイトルだけ見れた。


 オッドくんが入れた本は『悪魔と姫』、『華やかな王子とその末路』、『――』

 一冊だけ題名が掠れていて読めない。

 ライアンは『ウェザリアの歴史』、『ウェザリアとデストロイ』

 ウェザリア……とはなんなのだろうか。歴史と言っているから人とか国とかなのかも知れない。

 デストロイもわからないな……。後で機嫌が良さそうだったら聞いてみよう。

 

 部屋の中を見渡す。二人は既に部屋を出ていた。今ならバレないか……?

 とりあえず『ウェザリアの歴史』という本を開く。題名が読めているのだから内容だってその言語で書かれているはずだ。

 まず一番後ろを開いて何ページあるかを確認する。パラパラと表紙の方からめくっていく。中はたくさんの文字といくつかの挿絵によって構成されていて参考書や歴史書というよりかは小説や伝記の方が正しいのかもしれない。

 一番後ろまで辿り着いて左下を見る。『七八二』と書かれている。二百ページ程度なら斜め読みで読み切れるような狙いがあったが流石にこの量は無理だ。序盤と挿絵があるところを探してそこら辺を雑に読むか。

 

 まず序盤を読んでみる。二ページほど読んでみるとどうやら『ウェザリア』という砂漠の国があり、そこは既に滅んでしまっているようだ。滅んだ時期は大体一年前……。この本が出版されたのは……二年前。ということは三年前に滅んでいるようだ。

 挿絵の付近を読んでみると王様がいたことや大きな魔族災害、滅んだ原因についても書かれていた。

 王様の名前は『アダムス・ドラン』。

 大きな魔族災害については三度あり、およそ四百年前に起きた赤の災禍:ブラッドクイーンの襲来。二度目は百五十年前に起きた『夜の襲来』と呼ばれる魔族の大量発生。そして三度目は十年前に起きた『アダムス学校襲撃事件』。アダムス学校とはいわゆる貴族の学校らしいのだが、問題はそこではなくその襲撃してきた大型の魔物を倒した英雄は『アダムス・ライアン』。当時齢九歳のライアンは柵の木を一本抜きそれを槍のようにして戦ったようだ。

 ライアンは英雄で王の子供……。


 そんなことを思っていると下から


「おーい、早くきてくれー。お腹すいたぞー。」


 という声が聞こえてくる。

 誰かが部屋に入ってくる前に本を戻さないと。

 

 タイミングが悪く結果的にそこで読むのを終えてしまった。

 でも情報はすごく大きかった。もう一冊の方も読んでおきたかったけどしょうがない。

 

 僕は空いている段に自分の本を入れて部屋を出る。

 

 食卓に着くと既に全員が座っていた。


「さ、座って座ってー。待ってたんだからね!」

 

 サラスがお母さんみたいに僕に注意してくる。


「すみませんすみません。」


 なんで遅れたかはあっちが聞いてこないならいう必要はないだろう。軽く謝るだけでここは良さそうだ。

 僕が席に着くとサラスが「いただきます」と言い、みんなはそれに続いて「「いただきます」」と声を揃えた。


 料理は意外に豪華でシチューと鶏肉を丸々一匹焼いたものだった。

 軍だし最前線だしということで物資は節約するものだと勝手に思っていた。

 今日は一日目だし歓迎会の雰囲気なのかもしれない。

 

 成人済みのメンバーが派手に酒を飲んでいたこともあってすごく盛り上がった。魔族の悪口や最近あった嫌なこと、さっきの魔族との襲撃でどんな活躍をしたかなど大人という感じがしたまま今日の夕食は幕を閉じた。

 

 パラパラと人が少なくなったタイミングでサラスが声をかけてくる。


「カルムくん、この後時間ある?」


「え、はい。なんかするんですか」


「あらありがと。いやね、これから特訓しようかと思って。」


「いいんですか!?今からですか?」


「えぇ。やりましょ。剣を取ってきてちょうだい。」


 突然の提案に驚きながら「はい!」と返事をし、自分の部屋に急ぐ。

 

 銅の剣だけを持って一階に行くと既に外に出たのか玄関が開いている。

 玄関を通り抜け、あたりを見渡すと右側の宿舎の前でサラスが水を浮かして待っていた。


「ここにいたんですね。」


「ごめんね。探させちゃった?さ、始めましょ。」


 そういうとサラスは水を長い一本の剣の形にして振り回す。剣の中の水は流れていて振ると水が少し飛び、固形ってわけではないことがわかる。だからって何もヒントにならないけど。

 サラスは右手に剣を左手には水の球を浮かべている。


 僕は剣を構える。

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