第60話 コードクィーン

「司令! シオン様の歌姫、ソフィアさんをメインステージと変えてください!」


「総督代理、ヴァンガードワンにはザイオンのカイザーで決まったではないですか。

 ソルジャーたちの動きもよくなっていますし、このまま立て直せれば」


「今は状況が変わっているでしょう! 戦況が好転したのも見ての通りシオン様がクィーンをバトルフィールドから引き離したからです。

 最早このバトルフィールドは、クィーンを倒せるかどうかという状況なんですよ⁉」


「そうは言われてもカイザーだって健在ですし、今さら勝手にヴァンガードワンを交代させるなんてできない。

 ディーナ総督代理も理解できるでしょう?」



 ディーヴァの司令室では、ディーナがザイオンの司令に詰め寄っている。

 一瞬ディーナはモニターに視線を送った。

 そこにはシオンがクィーンを押さえるように戦っている映像が流れている。

 だがこうしている間も、シオンは重力の魔法を絶えず使っているのは間違いない。

 一番避けるべきなのは、ここでクィーンを抑えるためだけにシオンを消耗させてしまうことである。

 ならばすぐに退かせるか、全力で倒しに行くかの二択しかない。

 だが今回の作戦での布陣は、ザイオンの軍上層部や政治的な戦略が介在している。

 それもあって司令は、勝手にヴァンガードワンの交代などできないのだろう。



「今クィーンはシオン様が抑えているんですよ? ヴァンガードを交代しないのならば、我が国はシオン様をクィーンと戦わせるわけにはいきません。

 唯一クィーンと戦えるソルジャーを我が国としても失うわけにはいきませんから、 ラージュリアは今すぐに撤退させます」


「な、なら、SSランクであるカイザーと一緒に戦えば――」


「クィーン相手に満足にMGAマギアを振れなかったのを見ていたでしょう!

 あれではシオン様の足手まといです。

 それでSSランクを失うようなことになったら、司令は責任を取れるのですか?

 今できる最善は、ソフィアさんをメインステージで歌わせることです。

 もうこのバトルフィールドはただの連合軍での作戦ではなくなっているんです」


「だが……」


「ザイオンはこれが終わってから、ラージュリアに抗議でもなんでもすればいいでしょう。

 どちらか選びなさい。変えないのであれば、我々ラージュリアは退かせてもらいます」



 ディーナが選択を迫るが、これはほとんど脅しで実質一択であった。

 今この状況でシオンが離脱するようなことになれば、間違いなくこのバトルフィールドは全滅という未来しかない。

 それを理解させた上で、ディーナは選択を迫っていた。



「――わかった」



 了解を得たディーナは、すぐにディーヴァから作戦指示を出す。



『これより我々連合軍は、SSランクのアスラであるクィーンの殲滅を行う。

 ヴァンガードワンにはラージュリアのシオン・ティアーズが入ります。

 歌姫であるソフィア・エーベルハインは、すぐにメインステージに上がりなさい。

 後衛は前衛に合流し、負傷者を下がらせて。

 バトルフィールドは立て直し次第戦線の維持と殲滅を』




 ディーナの作戦指示が出たところで、シオンの迷いもなくなっていた。

 迷いがあったのは確かであったが、元々選択肢などなかったという結論にしかならなかったからだ。

 ここでクィーンを倒さないという選択をしたところで、連合軍は退くことなどできない。

 そしてクィーンがここからいなくなる保証など微塵みじんもないのだ。

 ディーナもそれはわかっていたはずであり、だからこそ状況を整えてクィーンの殲滅を明確に伝えてきたのだろう。


「なら、ここで終わらせる」


 シオンが身体強化を限界まで引き上げる。瞳の輝きが強くなり、銀色の輝きは身体の輪郭にまで現れていた。

 その瞬間、シオンはクィーンの側面に空間転移で現れていた。

 そのことにまだクィーンは気づいていない。

 目の前には巨大なクィーンの腕があり、シオンはそれに構うことなく思いっきり腕の上からクィーンを蹴り飛ばした。


 止まっているところから空間転移で現れたことで、シオンの蹴りは勢いなどまったく加わっていない。

 これは物理的なパワーというものではなく、ほぼ純粋な魔力によるものだ。

 それはシオンとクィーンの魔力によるパワーバランスを示すものでもある。

 質量としては圧倒的に分があるクィーンが、シオンの蹴りで一〇メートルほど飛ばされていた。


 以前クィーンと対峙したときはほとんど戦えてなどいない。

 ソルジャーですらなかったシオンは、無我夢中で苦し紛れともいえるような魔法でその場を凌いだだけだ。

 今はそのときの損傷もクィーンにはなく、完全に修復されている完璧な状態。

 それを今のシオンは完全に上回っていた。


(これなら近接戦闘も十分通用する)


『シオン様、ディーナ・リュシールの権限において、CODEコード QUEENクィーンを発令します。

LIMITリミット OFFオフ ALLオール FREEフリー

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