第32話 ヴェルド代表戦 一回戦
今回のSランクバトルフィールドに出撃したソルジャーたちについては、帰還したときには出撃前よりも世間は騒がしくなっていた。
特に出撃していたソルジャーでは唯一女性であったシュティーナは、以前にも増して大人気の状態である。
シュティーナが受けるかどうかは別の話だが、シュティーナの所属事務所には案件のオファーが殺到している状態になっていた。
Sランクバトルフィールドから五日後、予定されていたヴェルドが開催される。
収容人数七万人のスタジアムで観客席はすべて埋まっていた。
中央にはいくつものリングが用意され、その一つ一つに小さなライブステージが設置されていた。
ヴェルドの前半は年代別の個人戦が五日間で行われ、五日目は準決勝、決勝だけが行われる。
日を追うごとに試合数が少なくなるのでリングは広くなり、最終的にはリングは一つでライブステージの音響設備も大掛かりな物になった。
当日ヴェルドに出場しない代表は、観客席の中央に席が用意されている。
さらにその上には周囲と隔絶された部屋があり、各国の王や女王がそこで観戦していた。
クラリス女王が現れたときには当然護衛に就いているシュティーナも姿を見せ、スタジアムはシュティーナコールが沸き起こる。
ヴェルドにはプロのアナウンサーの実況がつき、初日は試合も同時に行われることが多いので四名のアナウンサーが受け持ちのリングをそれぞれ実況。
個人戦のヴェルドでは、ラージュリアは悪くないポイントを獲得していた。
総合ポイント一位は三一ポイントのシャトベール。
シャトベールは去年の成績は芳しくなかった国であり、試合数が多い国だ。
総合ポイント二位は二九ポイントでカーマス。
こちらは試合数が少ない国で全体的に勝ち進む選手が多く、きっちりポイントを加算していった。
そして三位は二八ポイントでラージュリアとエメリックが並んでいた。
ラージュリアは試合数が多い方で、去年はあまり振るわなかったようだ。
ヴェルドの結果は毎日報道され、去年から比較をした内容や注目のソルジャーのことなどを紹介していた。
個人戦のヴェルドが終了したことで、そのあとは代表戦について取り上げられている。
『現在三位のラージュリア代表は気になりますね』
『どういったところが気になるのでしょうか?』
『どこの国も個人戦のメンバーから代表戦に選抜されることがほとんどですが、今回ラージュリアは個人戦に出場していないシオン・ティアーズさんが出場します』
『シオンさんといえば、アイドルのソフィアさんが歌姫になっているソルジャーですね。すでに実戦経験もあるとか』
『そうです。いろいろ噂があるようですが、Dランクフィールドでヴァンガードワンを任されたこともあるようですし、今大会でもヴァンガードワンに指定されています。
ラージュリアのポイントはいい位置でもありますし、シオン・ティアーズさんの活躍次第では優勝も狙える位置でもあるので注目です』
個人戦の間は観客席の関係者席から観ていたシオンとソフィアだが、今は待機室にあるTVで観戦していた。
さすが代表戦というだけあり、個人戦よりもレベルが高い戦いとなっている。
どの対戦も個人戦の決勝レベルであるため、きっとほとんどのソルジャーが実戦経験者であった。
「ねぇシオン? 今までずっとクラリス女王陛下とか観戦に来ていらしたのに、今日はどうしたのかしら?」
「……各国の代表が全員集まることなんて少ないですから、なにかあるのかもですね」
代表戦初日は二試合する国と一試合の国がある。
三日目は準決勝と決勝だけなので二日間で準々決勝まで行われるのだが、試合数の問題で初日が二試合の国と、二日目に二試合の国がある。
そしてラージュリアは初日に二試合を消化することになっていた。
「シオン! うちが勝ったわ!」
モニターでは対戦国の先鋒が倒れていたが、致命的なケガはしていないはずだ。
試合会場のリングは魔力装置が設置されており、学園などの訓練場のように攻撃はすべて衝撃へと変換される。
そしてソルジャーは身体強化を行っているので、この衝撃くらいで今後戦えなくなるほど致命的なケガなど負うことはないようになっていた。
「キミがヴァンガードだ。頼んだぞ」
「頑張ってね!」
六回生の代表に応援され、シオンとソフィアは待機室から通路を通って外へと出た。
『ラージュリアの次鋒は、今回の代表戦が初出場のシオン・ティアーズ!
そして歌姫はここエメリックでもミュージックチャートの常連、ソフィア・エーベルハインです!』
「本物のソフィアちゃんだぁーー」「かわいいぃーー」「ソフィア頑張ってぇーー」「顔ちっちゃぁ~い!」
ソフィアはリングよりも観客席寄りに設置されているステージへと上がる。
後ろの観客からはステージの背中になってソフィアのことは見えないが、相手側に大きなウィンドウが表示されて観ることが可能になっていた。
ソフィアのステージから聴こえる伴奏が、まだ発表されていない新曲だったからだ。
「君が魔法を使えないということは知っているよ。でも勝負だから、こっちは魔法を使わせてもらう。ヴァンガードをしたことがあるらしいからね。
身体強化も不得意って話だけど、それでも格上なのはかわりないから」
相手のソルジャーの瞳が青く輝き始め、二人が
伴奏が少し短い相手の方は、先に歌声を発している。
そしてソフィアも歌い始めた瞬間、審判のソルジャーが始まりを宣言した。
開始と同時に相手は水魔法を三つ出現させ、そのままシオンに向かって先手を取りにくる。
お世辞にもその魔法のスピードは速いとは言えず、シオンは次々放たれる水弾を難なくと避けた。
このシオンの動きから、同じことをやっても回避されるのはわかりそうなもの。
だが相手はさらに同じ魔法を展開して追撃してくる。
(……魔法が使えない僕を、距離を取って叩こうってことか? どちらにしても――――これだけじゃ無理です)
魔法の追撃がきたタイミングに合わせ、シオンは回避と同時に踏み込み距離を詰めにいく。
(っ――――!)
シオンが踏み込んだタイミングで、逆に相手に飛び込まれていた。
相手は
こうなってシオンは初めてこの魔法の意味に気づいていた。
(粘着性を持たせて、さらに圧力を加えて動きを妨害するのが目的なのか)
この魔法に攻撃性はまったくなく、完全にサポートをするための魔法。
今まで放たれてリングを濡らしていた水が、シオンの脚を捕らえていた。
戦闘においての一瞬は、命が天秤に乗っていることもある。
今のシオンのように――――。
このタイミングではもう回避をすることはできない。
だがその相手は、シオンを見て顔を引きつらせる。
シオンは慌てることも焦ることもなく、勝負を決めにきている相手に
上から振り下ろされる
だがシオンは
リングに
とっさで水魔法に脚を取られたシオンであったが、それがわかっていればなんてことはない。
意識的に足下の身体強化を強め、体勢が崩れている相手を蹴り飛ばす。
シオンはそのまま追撃し、起き上がろうと目を開いた相手に
「そこまでっ!」
『な、なんと、受けに回っていたシオンさんでしたが、一気に形勢逆転してしまいました!
流れるような動きで
Dランクバトルフィールドでヴァンガードに入っていた実力は本物ということでしょう。
これでラージュリアは五ポイントを加算し、二回戦進出です!』
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