第26話 スクープ! ニルスとソフィア

『ねぇ? シオンなにかあった?』


「え? 特には……」


『……ならいいんだけど…………少し抜け出してきただけだから、戻るね』



 ソフィアがレコーディングに行ってから四日経っていた。

 この四日の間、ソフィアは学園の時間を外してタイミングが合うときに通話をシオンにしてきている。

 だがその通話は空気が重くなり、楽しい時間と言えるようなものではなかった。

 部屋のライトを消して、シオンはベッドから天井を見上げてまた考え込む。

 アイズに冷たい対応をしたシオンだったが、言われたことが頭から離れなくなっていた。



(実際のところはどうであろうと、周囲からどう見られるのかっていうのは言われた通りだし。

 ロサナさんたちのことがあって歌姫にしちゃったけど、あとのこと考えなさ過ぎだったのかもしれない)



 シオンが考え込んでいたのは、アイズが言ってきたことだけではない。

 元々シオンは第一歌姫を持つつもりがなく、それは軍にも伝えていたこと。

 ソフィアを歌姫にしてしまったのはその考えが変わったというわけではなかったので、それを含めて考え込んでしまっているという状態であった。



(ソフィアさんのことを思うのであれば……か。ソフィアさんくらい魔力強化できれば、誰の歌姫になってもソルジャーランクが上がることはあっても下がることはないだろうな。

 アイズさんが言っていたように、相性が悪かったとしても通用するはず。

 相性にこだわらなければ、間違いなくソフィアさんは高ランクソルジャーの歌姫にはなれる)



 シオンの結論も、アイズと同じ結果に行き着く。シオンの考えにも沿い、ソフィアに関しても今より周囲の状況はよくなるはず。

 だがシオンはそれを迷うことなく選ぶことができないでいた。

 ベッドにいるというのもあって、手を握りあったときのことが思い出される。

 ソフィアから離れればもう二度と手を握り合うこともなく、今のように話すこともなくなる。

 離れたからといってその瞬間他人になるなんてことはないのだろうが、今までの関係ではなくなるのは間違いないことだった。





 さらに四日後、学園から戻ったシオンがTVを点けるとニュースが流れていた。

 その画面からシオンは目が離せなくなり、意識しなくてもわかるくらい胸がドクンドクン鳴り始める。


『お相手の侯爵家とは、結婚を視野に入れたご挨拶をさせていただきました』


『ということは、先日ソフィアさんは御学友のシオン・ティアーズさんの歌姫になったばかりですが、ニルスさんの歌姫になるということですか?』


 画面にはソフィアの顔画像があり、ニルス・クロフォードが取材を受けている映像が流れていた。


『それに関してはお相手がいることですので、ここではまだお答えいたしかねます』


『まだ、ということはそういう可能性もある、ということですか?』


『可能性としてはそういうこともあるかもしれないですね』



 画面が切り替わり、スタジオのニュースキャスターや、元ソルジャーというコメンテーターが映された。



『ソフィアさんは歌姫になっていろいろと話題にはなっていますが、今回のニルス・クロフォードさんの件はどう思いますか?』


『シオンさんでしたっけ? 彼もすごいんですよ。あの年齢でこの前のバトルフィールドはとんでもないですね。

 ただ無属性というのと身体強化ができていないようなので、正直ソフィアさんほどの歌姫がお相手となると考えるものはありますよね』


『というと?』


『ソフィアさんほどの歌姫なら、もしかしたらニルスさんはSランクになる可能性もあり得ない話ではないと思うんですよ。

 実際シオンさんの主戦場はFランクバトルフィールドだったのが、Dランクバトルフィールドを一人で殲滅できてしまったくらいですから』


『確かにそれに関する考察も多く出ていますよね』



 シオンはここでTVを消すが、うるさく鳴る胸の音は続いている。



(レコーディングしてたはずなのに、どうしてこんな……)


 

 シオンはそのまま家を出るが、周囲にメディアらしき人たちを何人か見かけた。

 私服姿の軍が動いているのをすでに理解しているようで、家からはかなり離れたところで張り込んでいる。

 シオンはそれを身体強化で見つからないよう建物を移りながら移動していく。

 今メディアに捕まれば、どういう対応をしてしまうかシオンにもわからなかった。



「上の方のフロアで……とりあえず二泊お願いします」


「空いているお部屋を確認いたしますので、少々お待ち下さい」



 シオンがやってきたのは大型のホテルだ。もしソフィアが戻ってきた場合、今は顔を合わせるのを避けたかったからだ。

 部屋につくと真っ先にお風呂に入り、やっとシオンは携帯を見た。

 着信とメッセージがそれぞれきている。シオンは携帯の電源を落とし、食事を取りに出ようとして止まる。



(ニュースのことを知っている人がいるだろうから無理か……)



 シオンが諦めてルームサービスに切り替えた頃、総督室でもこの件は頭を悩ませていた。



「どうやらこの件は家同士で動いていたようで、ソフィアさんは父親であるヴィトールにこの件を伏せられて知らなかったみたいです。

 ただ父親との食事だと思っていたら相手側もいたという感じのようで、ソフィアさんは食事をせずに帰ったようです」


「そうか……ディーナ、確かソフィアちゃんの父親は、以前シオンのことを調べようとしていたよな?」


「はい。パートナーになることで恋人関係になることもありますから、それを危惧して情報を集めようとしていましたね。

 今回のことはクロフォード家が主導で動いているようですが、ソフィアさんの父親も噛んでいる可能性は高いでしょう」


「フォローくらいはできそうか?」


「完全にプライベートなことですから、これに軍が動いたらライン越えです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る