》コードブレイク《 最高機密で秘匿されていたSSランクソルジャー、知らずに蔑む者もいたが国を救うためにバレてしまう
粋(スイ)
第1章 秘匿されていたソルジャー
第1話 唯一のソルジャー
「被害状況は?」
「――――ソルジャーの損耗率、およそ一七%」
「Sランクバトルフィールドだと考えれば、一七%は許容範囲と見るべきか……」
「――待ってください!」
ソルジャー支援艦であるディーヴァの司令室で、オペレーターが焦るように司令に言った。
「なんだ?!」
「――――――巨大な魔力反応を感知! エ、Sランクのアスラを超えていますっ!」
「――! それは間違いないのか⁉」
「ま、間違いありません!」
二〇年前に隕石が落下して、突然現れ始めた生物。
いくつか種類はいたがどの個体に関しても他の生物を襲い始め、それは人間であっても捕食の対象になっていた。
人類はこの生物をアスラと呼称する。
世界は軍を動かして対抗したが、数ヶ月経つと銃火器が全く通用しなくなってしまう。
その結果八〇億人を超えていた人類は一五億人を下回った。
だがこれと同時期、魔力を持つ人間が現れ始める。
その変化の原因を、人類は魔力と定義した。
魔力を持つ者はアスラと戦える人類唯一の戦力となり、ソルジャーと呼ばれるようになる。
ソルジャーの魔力には火、水、風、土の属性があり、この属性によって使える魔法が異なった。
ソルジャーと対を成すように現れ始めたのが、魔力を持つ歌姫と呼ばれる存在。
ソルジャーと同じように魔力を持つが、魔力で戦闘が行えない者。
最初は偶然声をかけただけであったが、それがソルジャーの魔力をさらに強化した。
これは感情や想いといったものが影響していることが検証で明らかになる。
ソルジャーと魔力パスを通すことで、ソルジャーを強化できる存在だった。
このサポートの手段として採用されたのが歌であり、ソルジャーをサポートする者を歌姫と呼ぶようになった。
アスラはSからFランクまで分類され、この戦場であるバトルフィールドのランクはS。
これはアスラのなかにSランクがいるためであり、脅威度が最も高いランクフィールドでもあった。
「Sランク以上のアスラを感知?!」
『そうだ。Sランクのお前たちでなんとか――』
「ヴァレリオは右後方! ロイドはひだ――――」
ラージュリアでは唯一の女性Sランクソルジャーであるミシェルが司令の言葉を遮り、自分と同じSランクソルジャーに指示を飛ばす。
突然地中から今まで確認されていなかったアスラが出現したからだ。
だが指示を最後まで口にすることができない。
「――――お――重い――――」
突然身体が重くなり、地面に膝をついてしまう。
迎え撃たなければ自分たちが殺られてしまうが、まるで自分の身体ではないかのように自由が利かない。
「ッアアァァァアァァーーーーー」
「たすけ――て」
「く、来るなぁぁあああーーーー」
ミシェルがパッと周囲のソルジャーに目を向けると、Bランクのソルジャーは地面から起き上がることすらできずにアスラに捕食されている光景。
あれならまだCランクのソルジャーの方がマシかもしれない。
Cランクのソルジャーに関してはこの重さに抵抗すらできず、すでに押し潰されて絶命していた。
(このままでは――町の民間人にも――――)
すでに防衛ラインなど存在せず、次々にアスラは後ろにある町へと侵入している。
こんな状態ではシェルターが破られるのも時間の問題。
唯一救いなのは、時間の関係でディーヴァが町より後ろにいること。
(歌姫たちが健在なら、まだ望みはある)
ミシェルのそれは、希望だと思いたかったと言った方が近かっただろう。
重い身体でなんとか右手にある武器、
アスラ特有のオレンジに光っていた目が、絶命したことでその光が消失した。
そしてミシェルはすぐ新種のアスラを側面から急襲する。
今まで身体が重くなるような現象がなかったことを考えれば、この原因は新種のアスラによるものの可能性が高い。
ならばそれを倒すことが、ソルジャーや民間人を多く助けることに繋がるとミシェルは考えた。
(全然加速できてない――)
動きはSランクソルジャーとは思えないほど遅く、翔ぶように加速していた動きではない。
それでもミシェルは今持てるスピードで新種のアスラに迫る。
右には後方から斬り込むヴァレリオ、反対側からはロイドがタイミングを合わせて来ている。
三方向からの同時攻撃。誰かしらの斬撃が通り、そこから一気に畳み掛けるイメージをミシェルは描く。
だが、そんなイメージ通りになることはなかった。
体長七メートルの大型のクモのような下半身は、硬い金属のようなどす黒い甲殻があってヴァレリオの
クモの頭の部分にはSランクのアスラと同じような人型の上半身があり、オレンジの目がミシェルに狙いを定めた。
思いっきり振り抜いている
爪が一つでも命中すれば、身体に大きな風穴ができるのは間違いない。
ミシェルは重い身体をなんとか反応させ、それを無理矢理にでも回避する。
目の前を爪がギリギリ過ぎ去った瞬間、ミシェルはクモの脚に蹴られるような形で弾き飛ばされた。
たったその一撃で骨は砕け、何十メートルという距離ができてしまう。
ミシェルを受け止めた申し訳程度にある壁の向こうでは火の手が上がっている。
民間人の悲鳴が至るところで上がっていて、すぐそこでは二体のアスラが一人の人間を同時に捕食していた。
新種のアスラを早く倒さなければ、文字通り全滅するような状況。
ミシェルがさっきの新種のアスラに目を向けると、下半身にある巨大な口がロイドを半分捕食していた。
片脚は千切れ落ち、下半身はすでにアスラの口のなか。
上半身だけでロイドは抵抗しようとしているが、その力は弱々しい。
なにかを叫びながら
このバトルフィールドは、一匹のアスラの出現で完全に敗北していた。
最高ランクであるSランクソルジャーですらなにもできず、ソルジャー部隊はほぼ壊滅。
絶望的な光景にミシェルは死を覚悟した。
そんなミシェルの視界の端に、動いているなにかがある。
「――――――」
涙を流し、左手で右手首を握って新種のアスラに右手を向けている少年。
それは信じがたい光景だった。
Cランクソルジャーは抵抗できずに押し潰されている。Aランクソルジャーですらなんとか身体を動かすのが精一杯なバトルフィールドで、その少年は立っていた。
ソルジャーには歌姫による魔力強化があるが、それがないのに立っているなどあり得なかった。
瞳が銀色に輝き、明らかに魔力で身体強化をしている。
周囲の空間が薄っすらと銀色に光り、赤い線が空に走った。
それは新種のアスラに降り注ぐ小さな隕石。
数個という数じゃない。三桁はある小さな隕石が周囲のアスラを潰し
それは新種のアスラすら例外ではなかった。
(――魔法なの?!)
魔力が通ったものしか通用しないアスラには、身体から離れるような銃火器の類は利かない。
それはたとえ隕石であっても同じはずだが、アスラに損傷を与えているということはこれが魔法である証拠でもあった。
部位を何箇所も削る隕石に堪えかね、ボロボロになった新種のアスラは逃亡する。
他のアスラはすべて隕石によって葬られ、重かった身体は新種のアスラがいなくなった途端元に戻った。
このバトルフィールドでの生存者はディーヴァにいた者を除き、二名のSランクソルジャー、二名のAランクソルジャーと民間人一名の計五名だけである。
この新種のアスラはのちにSSランクと認定され、クィーンと呼称された。
そしてこの少年シオン・ティアーズは両親を亡くしたこともあって軍で保護をされ、のちにソルジャーとなる。
だが魔法属性が未知のもので、加えて何度も魔法を使えない可能性が明らかになりラージュリア国で秘匿されることとなった。
ラージュリア国がクィーンに対する切り札として秘匿した、世界で唯一のSSランクソルジャーであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます