第30話 金色と繋がる影は誰の手か
むすーっとした顔をしている自覚はある。自覚はあるんだけどさぁ……ッ!
「ロデオ・ロデオでも降りれないとは思いませんでした……」
「ゴールドスピーカー一家。何が何でもシャリアちゃんを誘拐したいのかしらぁ……?」
そう。二人が言う通り、ロデオ・ロデオにもゴールドスピーカー一家がうろついていた。
なので結局、列車に乗ったまま。
このままみんなとキャシディ駅で降りるのが決定だ。
何せ、次の駅がキャシディだしね。
――そんな中でビリーはというと……
「~♪」
口笛を吹いていた。
盟約の唄だ。本当に好きなんだな――とは思うけど。
「痛てててって」
思わずほっぺたを引っ張る。
なんか妙に余裕ぶっているのが納得いかない。
いやまぁ、完全に八つ当たりの自覚ありますけれども? それがなにか?
「ヒドいな、シャリア」
「何か知っているコトでもあるの?」
「無いけど? どうしてそう思ったのかな?」
「余裕っぽいから」
「とんでもない理由だね」
やれやれ――と肩を竦める仕草もわざとっぽい。
「ジタバタしてもどうにもならないくらいの包囲網が敷かれてるって気づいたから、ジタバタしなくていいやって思っただけだよ」
「だとしたらゴールドスピーカー一家。人員もだけど人材も豊富なのね」
「だろうね。だから、下っ端とはいえ各駅にこれだけの人数を配置できる。何らかの情報伝達手段も持っているんだろうさ」
言われて、わたしはハッとする。
確かに、いくらわたしを狙っているとはいえ、どの駅にも一家の連中がいるのは不思議だ。
恐らくは、
ハニーランドでわたしを見たという連絡だ。そして乗っている列車からして王都行きだと当たりがつけられているから、各駅に人が配置されている。
「付け加えるなら、シャリアを狙えば芋蔓式に俺たちも狙えると思ってのコトだろう。
俺が――いや俺とラタス姉妹が、シャリアを見捨てないコト前提の作戦だよ」
「どうして見捨てないって思ったのかしら?」
「だって、シャリアは俺たちに助けを求め、俺がそれに応じたからさ。
やつらの情報網の中には、俺やラタス姉妹がお人好しだって情報も含まれてるんだろ」
「他人の心理や行動パターンを分析して指示を出せる奴が上にいるってコト?」
「そういうコト」
ビリーは気安くうなずくけど、それって結構最悪な話なんじゃないだろうか。
「付け加えるなら、ハニーランドでの一幕も加味されているのでしょう」
「そっかぁ。無視して
うあー……。
そこも踏まえられてるのかぁ……。
「以上のコトから、ジタバタしてもどうしようもねぇなぁ……と俺は思ったのでした」
「それでぇ、ビリー」
「ナージャン? どうした?」
「どうしてシャリアちゃんがしつこく狙われているかの答えはぁ?」
「いや、だからそれは今説明した通り……」
「そうねぇ。一つの理由としてそれはあるでしょうねぇ……でもぉ、ビリーは別の要因も考えているわよねぇ……?」
ずずいっと迫るようにして問いかけるナージャンさん。
その嘘や誤魔化しは通用しないぞ――とばかりの迫力に根負けしたのか、ビリーは両手を上げて首を左右に振った。
「証拠はない。根拠もない。ただ状況的にもしかしたら――という程度の話だけど」
「それでもいいわぁ……ここはねぇ、語るべきタイミングだと思うわよぉ」
ナージャンさんはそこですっと下がると、ビリーは観念した様子で嘆息した。
「キャシディ伯爵。
ゴールドスピーカー一家と繋がっているのも、国宝アークレピオスを欲したのも、そしてシャーリィ・マイト・ベルに懸賞金を掛けたのも、恐らく全てのバックには、キャシディ伯爵がいる」
「つまりビリーは、キャシディ伯爵がゴールドスピーカー一家を利用して色々動いていると言いたいのですか?」
「ああ。その関係はギブアンドテイクだろう。
キャシディ伯爵を手伝う見返りとして、キャシディ領内でかなりの行いを目こぼしされたりしているんじゃないかな」
ビリーたちのやりとりを聞きながら、わたしの意識は思考の海へと落ちていく。
キャシディ……キャシディか。
以前にパパ――というかうちの領地にちょっかいを掛けてきた理由はなんだっけ?
……そうだ。
凶悪な魔獣がうろつく砂漠の中心なんて、どうやって利用するんだか。
むしろアレのせいで、魔獣が集まりやすく、しかも凶悪化・凶暴化しやすいっていうのに。
……そういえば、フェイダメモリアも
ラタス姉妹の自宅のある森――確か枯れ木の森にも、あるって言ってたような……。
これは偶然?
そんなワケないわよね。
「伯爵の狙いは
わたしを狙っているのは、ただビリーたちへの人質ってだけでなく、ベル領の領主であるパパとの交渉材料にしたいから……?」
もしそれが共通点なのだとしたら、なぜ伯爵は
「なるほど……理由はともかく狙いがそれなら、辻褄の合う面もあるね」
「ただのエネルギー利用――というワケではなさそうですね」
「つまり伯爵からの立ち退き要求はぁ、枯れ木の森というよりもぉ、そこにある
そうすると今度は国宝アースレピオスを狙う理由が分からなくなるんだけど……。
「うーん……考えすぎて、ちょっと疲れてきちゃったかな。
ビリー、売店に行ってきてもいいかしら?」
「もちろん」
ビリーの許可を貰ったので、わたしは立ち上がる。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「美味しそうなものがあったらぁ、ちょっと分けてねぇ」
「了解です」
そう笑って、わたしは一等客室の個室から出る。
耳に残る盟約の唄を口ずさむ程度には気楽に、わたしは売店車両へと向かう。
この時、わたしたちは完全に油断していたのかもしれない。
餌に群がる蟻のように、各駅にわらわらといたゴールドスピーカー一家。
駅にうろつく彼らが列車に乗車した気配がなかった。
だけど、彼らが乗ってない理由にはなってないはずのに――
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ちょいちょいお昼の予約ミスっててすみません
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