酸素-7
亜宇は普段通り、出社した。
あの交番の一件以来、身の回りに変な事は起きず誰かにつけられるという事もなかった。
亜宇自身、少し過剰に反応しすぎたかそんな事を考えながら自分のデスクに座る。
「おはようございます。三目さん」
席に座ると同時に背後から酸部に声をかけられ少し驚く亜宇。
「お、おはよう」
「あれからどうですか?」
「特にないよ」そう答えながら亜宇はノートパソコンの電源を入れる。
「それは良かった」
「ねぇ、どうして気にかけてくれるの?」
「先輩にもしもの事があったら困りますから」
「またそれぇ~」
そんな会話をして仕事に取り掛かる亜宇。
その日もまた普段通り仕事を終え定時退社する亜宇と酸部。
ビルを出ると酸部が「ああ、この前の人居ますね」亜宇にそう告げる。
「どういう意味?」
「ほら、あそこ」酸部が指を指す方向に愛子の姿があった。
「あの人は・・・・・・なんで?」
「知合いですか?」
「知合いではないかな」
「どうします?」
混乱する亜宇を他所に酸部は次のアクションを聞く。
「偶々、居るだけでしょ」
亜宇は酸部に言うと同時に自分にそう言い聞かせ帰ることにした。
「あ、待ってくださいよ」亜宇の後を追う酸部。
「大丈夫ですか?」
「うん、ごめん。今日は一人にして」
それだけ告げ亜宇は一人で帰宅していった。
一人残された酸部は別方向に歩いて行くのだが、彼は気づいていなかった自分の後をつける一台の車がある事を。
亜宇が自分のマンションの手前で差し掛かった頃、「あの、すいません」と話しかけられたので振り返ると愛子が居た。
「本当に尾行していたんだ。私、貴方に何かしましたか?」
ガツンと言ってやろうと思い少し語気を強め愛子に詰め寄りながら発言する。
「それは誤解です」
「何が誤解よ! 現に私を付け回しているじゃない!!」
「それはそうなんですが・・・・・・・もしよろしければ、その誤解を解く為に私の話を聞いて頂けませんか?」
愛子の目を見てこの娘が噓をついているとは思えず、その誘いに乗ることにした。
二人は近所のファミレスで話し合う事となった。
「で、どうして私をつけてたのか教えてほしいな」亜宇はそう切り出しながら、注文した生ビールを飲む。
「はい。実は殺人事件の捜査で」愛子がそう言いかけると「殺人事件!?」口に含んでいたビールを吹き出しそうになる亜宇。
「という事は、貴方警察の人?」
「警察じゃなくて探偵です」と言って自分の名刺を渡す。
「探偵さんが殺人事件の捜査を?」亜宇自身もそんなドラマみたいな話が現実にもあるのだと驚く。
「まぁ、特殊な例なので一般の探偵はこんな業務を請負わないのでそこだけ言っておきます」
「そうなんだ。で、私が犯人の疑いがあるから尾行していたそういうわけ?」
遂に亜宇は確信についたことを愛子に告げる。
「そう思われても仕方ありませんが、実はそうではないんです。
実は私の同僚が、貴方が事件に何かしらの形で関わっているに違いない。そう言うものですから貴方の身辺調査を行っていました。不愉快な思いをさせて申し訳ありませんでした」
愛子は謝罪すると共に、新三の能力のことは伏せながら何故、尾行していたのかその説明を行った。
その説明を聞いた亜宇は愛子の真摯な態度かつ愛子自身の口から虚偽のない説明を聞き納得した。
「分かりました。それで私を尾行して事件に繋がるものがあった?」
「はい。お陰様で」
「そう。なら良かった」
今の亜宇は不思議と怒りというより、事件解決の為に自分が役に立った事に喜んでいた。
「図々しくて申し訳ないのですが、事件について聞きたいことがあります。お答え頂けないでしょうか?」
「構わないわよ。何でも聞いて頂戴」
「ありがとうございます。では、早速。この男性は同僚の方ですよね?」
最初の尾行の際、撮影した亜宇と酸部が並んでいる写真を見せながら質問する。
「後輩の酸部 素男君。彼が犯人なの?」
「いえ、そうと決まったわけではありません。只、彼が今回の事件の最重要参考人な可能性がありまして」
「最重要参考人ですか・・・・・・・」この時、亜宇はこの事実を会社に報告したほうが良いのかそのような事を考えていた。
「だからといって、会社には報告しないで下さい。酸部さんに不利益が被る可能性がありますから」
因みに、愛子のこの発言は誠の受け売りからの発言である。
「分かった。会社には報告しないわ」
「そう言って頂けると助かります。では次の質問です。
この所、酸部さんに変わった所はありませんでしたか?」
「変わったことねぇ~」少し考え始める亜宇。
「どんなことでも良いんです」
「やっぱり、あれかな?」
「あれと言うのは?」
「ほら、私が交番に駆け込んだ時があったでしょ」
「その節は申し訳ありませんでした」
「良いのよ。そんな事は。それよりその次の日よ。
私、そのことで悶々としていると彼が話しかけてきてね。別にそこまでは変じゃないのよ。
それで尾行された話を彼にしたのだけど、やけに食いつかれて」
「食いつくというのは?」
「首を突っ込んでくるって言うのかな? この写真の時もそうだったんだけど一人で帰るって言うのにしつこく食いついてきてさ。それで仕方なく一緒に帰ったわけ」
「成程」愛子はタブレット端末のメモアプリにメモ書きしていく。
「他に聞きたいことは?」
愛子はそれから酸部の勤務態度、亜宇が知っている範囲での素性などについて質問した。
「今日はありがとうございました」質疑応答を終えた愛子は礼を言う。
「こちらこそ。なんか、ごめんね。怒鳴りつける感じになっちゃって」
「私達がいけなかったんです。不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした」
再度、亜宇に謝罪した愛子は会計を済ませてファミレスを出た。
少し歩いたところで電話が掛かってきた。
相手は誠であった。
「もしもし、何かありましたか? 巽川さん」
「大きなことは特になかったのですが、情報を共有しときたいと思いまして。
これから大丈夫ですか?」
「あっ、はい。私もとっておきの情報を仕入れたので」
「では、Star of Light探偵社で会いましょう」
「了解です。では」そう言って通話を切った愛子は「さぁ、気合い入れて行くわよ!!」自分の両頬を軽く叩き自分を鼓舞し事務所に向かって歩き出す。
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