第45話大賢者とサキュバスの少女(四天王戦その4)
「ねえ、本当にこんな格好しないといけないの?旦那様」
「さすがに布面積が少なすぎるぞ。婿殿…」
「ジャック君が見たいなら私は別に…」
今メアと御門先輩とアリスがあられもない姿になっている。
本人達は戸惑いながらも着替えてくれた。
黒いビキニの水着に小さな羽と先端がハートの長い尻尾が付いている。
これは別にコスプレさせて俺が楽しんでいる訳ではない。
魔王城への通り道にある、サキュバスの村に潜入する為の変装だ。
そこへ進み魔王城への道を防いでいる幾つもの結界の一つ、「第一の結界」とやら破壊しなければならない。
「みんな、準備はいいか?転移!」
俺は皆の手を掴み転移の魔術を唱えると村はずれに転移した。
いきなり村の中に飛んだら怪しすぎるからな。
「じゃあみんな、作戦通りに頼むぞ」
メア達は頷くと尻尾で俺をぐるぐる巻きにした。
俺は捕らえられた冒険者という設定だ。
「おおこれは中々…と感じてる場合じゃないな。そろそろだぞ」
「あなた達、見ない顔ね」
見張りのサキュバスが近付いてくる。
やばい、なんとか誤魔化さないと。
「新入りなんですぅ。挨拶遅れましてすみませーん」
ナイスフォローだ、メア。
「そう、なら通っていいわよ」
見張りのサキュバスが道を開ける。
彼女の前を通った瞬間、気持ちの良くなる香水の様な香りがした。
これはサキュバスのフェロモンという奴だ。
無論偽装工作の為に皆にもふりかけてあるが持続時間が短い。
もって30分といった感じだろう。
「ヒソヒソ(旦那様、あそこの小屋が結界の発生源かしら)」
「ヒソヒソ(そうだろうな。バレない内に壊してしまおう)」
結界を発生させている宝珠が置いてある小屋には見張りがわんさかいる。
重要拠点だろうから当然だろう。
俺達は見張りに見つからない様に物陰に隠れる。
「いくぞ…フルステルス!」
俺は小声で透明化の魔術を唱える。
この魔術で最初からいければよかったのだが、
持続時間が短い為、対象を見つける前に使う訳にはいかなかったのだ。
そんなこんなで宝珠の前まで来た俺達。
宝珠には何十もの結界が張られている。
普通の魔術師ならば数日は解除に時間を要するだろう。
だが俺は大賢者、そんなまどろこっしい真似はしない。
「アンチロック!」
俺は小声で結界解除の魔術を唱えた。
何重にも結んだ紐が一瞬でほどけるかの様に警備結界は解除されていく。
その時間、ものの数分だった。
「よし、後はこの宝珠を壊して転移の魔術で帰るだけ…」
「そうはさせませんわ!」
「!?」
俺達に落雷の魔術が落ちる。
俺はそれをとっさにバリアの魔術で防いだ。
「なぜバレたんだ!?透明化もしていたのに!」
「雄がいないのに雄の匂いがするんですもの。サキュバスは鼻が利くんですのよ?」
自信満々に言い放ったこの女こそ魔王軍四天王の一人ラキュラスだった。
彼女は周囲のサキュバス達を下がらせる。
ビンビン感じる高位の魔力から察するに、サキュバスの支配階級にいる存在なのだろう。
「ハーフとはいえ私もサキュバスですもの。これ位の芸当はできますわ!」
ラキュラスは落雷の魔術を何度も何度も放った。
それは強力で、俺のバリアの魔術がなければ皆黒焦げになるレベルだった。
しかし、こういう時にこそアレの出番である。
「好感度ボード!」
俺は好感度ボードを召喚すると、ラキュラスという少女にボードを向けた。
しかしロックが掛かっていて動かない。
どういう事だ?もしや女装した男なのか?
「あなた、まさかサキュバスに魅了系の魔術が効くと思ってるんじゃあないですわよね?」
「確かにそりゃそうだ…」
数十回落雷を防いだ所で皆のMPが尽き、俺は倒れた。
「ふふふ、これが魔王すら倒したという大賢者…」
ラキュラスが倒れた俺の顎を持ち上げる。
「これからあなたを私の下僕にして差し上げますわ」
ラキュラスがチャームの魔術を俺に放った、その時である。
「!?」
「どうやら作戦は成功した様だな」
サキュバスは強い男にチャームの魔術を掛け、下僕とする事を至上の悦びとしている。
しかも今度の獲物は前魔王を倒した大賢者だ、しない訳が無い。
俺には常に状態異常反射の魔術が掛かっている。
つまり今は彼女が俺の下僕って訳だ。
まあサキュバスにチャーム系の魔術が通じるかは正直半信半疑だったが、
好感度ボードが効かない高位のサキュバスのチャームだし有効だったのだろう。
この作戦はある意味賭けだった訳だ。
「ゼロ様ぁ、一生あなたに仕えますわ♪」
「初任給をやろう、好きな物を言え。宝石か?家か?」
一国の王となったのだ。
こういう台詞、一度言ってみたかったんだ。
「……キスです!」
「え?」
「……キスです!」
「それってほっぺにチュー的な?」
「唇と唇の濃厚な奴です!」
美少女サキュバスのキス、願っても無い事だし、転移の魔術の為にMPタンクになって貰わないといけないから機嫌を損ねる事もしたくない。
幸いメア達は気絶している。
するなら今がチャ…
「もちろんしないよね、ジャック君?」
「も、もちろんさぁ!」
いつの間にか俺の背後にアリスが立っていた。
くわばらくわばら。
そうだ!こういう時にリンがあるんじゃないか!
リンとは剣に転生した少女でそこそこのMPを持っている。
高いレベルの剣技で勝手に戦ってくれる他、緊急時にはMPタンクになるのだ。
「リン、転移の魔術を使うからMPタンク役頼むぞ」
「あなた、その内後ろから刺されるわよ?」
そんな日が来ない事を祈って俺は転移の魔術を唱えた。
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