第6話

 そして、王女にとって、王にとっても運命の日がやってくる。王がふと精霊である自らの妃のことを思い出したのだ。それは奇しくも王女の3歳の誕生日であった。

 王は精霊の妃のことを側近に尋ねた。側近は彼女に王女が生まれ、3歳になることを告げる。王は王女が3歳になるまで報告されなかったと不快になるが、ついに精霊族との混血の子ができたという喜びの方が大きく、報告されなかったことに対してあえて触れるようなことはしなかった。しかし、それも次の側近の言葉によって一変する。王女が神性力を持たないということを聞いた王は無性に怒りが込み上げてくるのを感じた。喜びと期待が大きかっただけに落胆も大きく、それが怒りへと変わった。

 

 精霊族との混血なのになぜ神性力を持たないのか。あの女の力が弱すぎたのか。どんな理由にせよ、神性力を持たない子を生んだあの女を許さん。

 

 今でも何故あれほどまで激昂したのか理解できない。もともとその日は機嫌が悪く、ただの八つ当たりだったのだろう。

 怒り狂った王は側近が止めるのも聞かず精霊の妃のもとへと乗り込んで行った。彼女の部屋に入ると脇目も振らず彼女へと突き進み、その華奢な身体に短剣を突き立てた。妃は声もあげずに崩れ落ちた。王女が異変を聞き、部屋に入ったときにはすでに遅く、胸を真っ赤に染め、絶命する母のそばで理性を失った顔の1人の男が荒い息を繰り返していた。不幸にも彼女は神性力によって何が起きたのかを数秒で理解してしまった。悪用されることを恐れて隠したその神性力が原因で母が殺されたことを知った。王女があり得ない現状に呆然とするなか、母を殺した男、王は神性力のないとされている王女に気づく。王が先ほど母の命を奪ったその短剣を持ち直し、彼女に振り下ろした。王女の身体に刃が入るというその瞬間、王が吹き飛ばされた。王よりも明らかに量の多い魔力により、王女は防御をしたのだ。吹き飛ばされた王は壁にその身体を強く打ちつけ、意識を手放した。


 王は3日後に目を覚ました。しかし、彼は強く打ったことが原因なのか3日前のことをまったく覚えていなかった。事が事だけに側近らは3日前の王の奇行を隠蔽することを決めた。王女になんの咎めはなく、その母は静かに葬られた。



◇◇◇


 「わたしはその後、貴方に復讐することだけを心の支えに生きてきました」

王は王女に神性力が備わっているということを聞いてももう喜ぶことはなかった。自分が置かれている状況というのを理解し、がっくりと膝をついた。

「す、すまなかっ」

「謝らなくて良いです。今さら言ったところで何も変わりませんわ」

王の謝罪の言葉を遮って吐き捨てるように王女は言う。

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