最後の王女

黒三毛

第1話

 かつてこの地には人間という、生命の頂点に君臨し、非常に高度な知能を誇る種族が生を営んでいた。魔力を持ち、超自然的な力を自在に操る魔族、人間の3倍を超える重厚な肉体と潜在的に刷り込まれた類まれなる戦闘センスを持つ獣族、聖なる力と呼ばれる神性力を持ち、最も神に近いとされる精霊族など、正面きって戦ったらまず負けるであろう桁違いな能力をもつ種族らを支配下に置くことができたのは人間がもつその一際秀でた知能によるものだ。魔力と同等、それ以上の力を科学と呼ばれる学問によって手に入れ、獣族と互角以上に闘うことができる戦闘機を開発した。医療の発展により、治癒を行う精霊族の神性力に頼る必要がなくなった。圧倒的な知能によって人間は5000年以上栄え続けたのだ。


 そんな最強の支配者もたった1人の少女によって500年前、魔族、獣族、その他人間に近い種族と共に滅び去った。



◇◇◇

  

 祝砲が鳴り響く。人間がこの大陸全土を支配下におき今年で1000年を迎えた。かつて敵対し、互いに血を流し合った他の種族も、精霊族など大陸の奥地で暮らす一部の種族を除き、人間に交ざり生活をしている。

 人間の王、すなわちこの大陸の王によって催される100年に一度のと呼ばれる大陸統一記念祝賀会が今年は節目として盛大に開催され、通常はつどうことのない種族のおさが統一後初めて王都に集まる。大陸全土がお祝いムードに包まれ、人間、魔族、獣族、その他の種族入り乱れてどこかしこも非常に盛り上がっていた。


 


◇◇◇

 

祝砲の音を聞きながら、この王都で最も高い場所、王城の北の塔の屋根の上から眼下を見下ろす1人の少女。彼女はこの大陸の第十三王女であるが、しかし彼女の瞳に愛国心、祝福の色などはなく、ただ静かに憎悪の白い炎が燃えていた。

「あと1刻……」

そうつぶやくと彼女は軽やかに屋根から飛び降りた。



◇◇◇

 

 輝くほど眩しい日の光が差し込む王城の大広間では、それ以上に煌びやかに着飾った人々が祝賀パーティーを楽しんでいた。人間の王、それぞれの種族の長、貴族と呼ばれる特権階級の人々、そのなかには屋根の上から王都を見下ろしていた王女もいる。先ほどの憎悪を消し、他の王族と同様に招待客に挨拶してまわっていた。

 人間が大陸の支配者として認められて1000年。当初は他種族の血が交ざるのは忌諱されていた。しかし500年ほど前、人間の王子と魔族の高位貴族令嬢が恋に落ち結ばれた。生まれた子が人間としての高い知能もあり、魔力を持っていたことから他種族との婚姻が認められ、競って混血がすすめられた。

 王族も例にもれず他種族との混血がすすみ、現在の王は純粋な魔族に負けず劣らない魔力を誇る。それゆえ、王族の力が過去類を見ないほど強力になっていた。


 ディニテイア最終日に行われる記念パーティーも終盤を迎え、最後に王による演説が広場に面したバルコニーの上で行われた。背後には王族、種族の長らを従えていた。

「我ら人間がこの大陸を統一し、すべての種族と共に生を繋ぎ1000年を迎えた。盤石な基盤を創造し、我らの繁栄のため人生を費やした偉大なる先祖を称え、永遠とわの繁栄をここに誓おう」

 演説の最後、王の宣言に広場に集まった民衆が歓声をあげ、背後の王族らも王を称え拍手を贈る。魔力によって拡張された王の声が大陸全土に届いたのであろう、遠くでも歓声が聞こえていた。

 この広場に集まり歓声をあげる民衆の誰もがこの大陸の永遠の繁栄を疑わなかっただろう。彼らからは純粋な笑みがこぼれていた。民衆だけではない。貴族、王都に集ったそれぞれの種族の長、王までもが今後も繁栄が続くことを確信していた。

 王が手をあげるとさらに民衆の歓声が高まる。そして種族の長、王族も民衆に手を振り始めた刹那、兇変きょうへんが起こる。

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